第3話 能力
「まず身体能力、魔法、魅了、金。望めば何でもだな、だが発揮する効果は与えた者の強さや性格に左右される。俺が力強さを与えれば効果覿面だが、魔力を与えても大して役に立たん」
「うん、同じ魅了でも私が与えると恋になるね。パルのだと親しみだし、ハラルファは好意に執着がつくかな?」
ヴァンとミシュトがわかりやすく説明してくれるのだが、その前にこの状況についていけていない俺。一生懸命理解しようとはしてるんでけど、思考が滑る。
「まずは欲しい力や条件をあげてみよ」
「欲しいもの……」
欲しいものと突然言われても、ピンとこなかったのでこの世界について聞いた。予想はしていたけど精霊や魔物が出て迷宮がある剣と魔法の世界。
一通りの身体能力の強化は守護を決めると自動的にされるらしい。その中で突出した能力を選ぶなら別だが、普通より強いなら他の能力をもらった方がいいかな?
俺からの条件は、おそらく一緒に呼ばれただろう姉と関わらないこと、快適に生活できること。
「勇者と関わりたくないと?」
主に話すのはカダル、秩序を司るとか言っていたのでまとめ役なんだろう。光の玉は何か言ってるけどスルー。
そしてやはり姉たちが勇者決定。絶対近寄らない!
「全力回避したい。あれは明るいし社交的だけど人に罪悪感を植え付けて要求を通そうとするタイプなんだ」
勇者は光の玉を手伝って、場を整えた大国にいるそうだ。
ダブルスタンダードで、人を責めるわりに自分では守らなかったり行動しなかったり。
長く一緒にいればわかるんだが「自分で動かなくてもいい立場」を手に入れた状態は、考えると恐ろしい。
最初に気づいたのは、叔母があまり美味しくないお菓子をくれた時。その菓子を前に「せっかく叔母さんがくれたのに、食べないなんて酷い」のセリフだ。
ナチュラルに俺が食べないのが悪く、叔母さんが悲しむと責められまくってたのだが、別に叔母さんは俺一人にくれたわけじゃない。要するに姉は自分で食べたくなかったので俺に食わせようとしてた。
あの時は「そういうなら自分で食べれば?」で黙らせることに成功した。――だが、姉の誘導は年を重ねるごとに巧妙になっていった。
「えー、
「どんな人間でも寿命は百年そこそこ、我らにとっては大した問題ではない」
光の玉がごちゃごちゃ言ってるが、他の人もほぼスルー。
その正義を道具に人を責めるタイプだちゅーとるのに。光の玉にとっては姉に活躍してもらえないと力が流れ込まないし、ここにいる他の人にとっては、あっちの世界から「連れて来た」ことで姉たちの役割は終了というところか。
姉を保護した国では勇者の力と名声で恩恵を受けてるようなので、どんな結果になろうと放置でいいだろう。
案外、姉の周囲は疲弊しても、姉に直接会わない国民とかは正義の名の下、正しい治世に満足だったりするかもしれん。
そしてオススメを聞きつつ、欲しい力として色々あげていった結果。
【魔法の才能】【武芸の才能】【生産の才能】
【治癒】【全料理】【収納】【転移】
【探索】【鑑定】【精神耐性】【言語】
【解放】【縁切】【勇者殺し】。
正直最後の三つは姉関係だ。姉と関わりたくないと言ったら極端なことに【勇者殺し】がついた。姉がこっちでもらった能力って【全魔法】と【支配】だってさ。絶対関わり合いたくない。
【言語】と【精神耐性】は、ほぼ必ずつけているものだそうだ。言葉が話せないと困るし、こっちに一人きりという孤独対策で。
必ず付けるものなら来た時に自動でつけて欲しかったな、身体能力もだけど。
まあ、動物を自分で殺して食べたり、人間同士の殺し合いのある世界なので、【精神耐性】はきっとこれから活躍してくれるはず。
回復をしてもらって、この世界のことをもう少し詳しく聞かせてもらう。
剣の
持ってるのと使えるのは違う。今まで持っていなかったし、やろうとも思わなかったことを突然やろうとして、上手くできると思わなかったもので。
アイテムも望んだ。だいたい何でも斬れる『斬全剣』、植物を成長させる『成長の粉』。『安全で快適な家』、尽きることのない各種食料。
食料はほぼ素材のまんまなので【全料理】をつけてもらった。見たことのある料理ならつくることができ、さらに美味しくできる。
家の場所は姉のいる国から離れた、平和で四季もあり気候も安定した国の田舎。ちょっと国のお偉いさんとか操作して、どの国にも属さない不可侵な俺の土地ってことになっている。それに俺から望まない限り、意識されない――注目されないし、入れない。
「ありがとう」
素晴らしき我が家!
「こちらからも礼を言う」
秩序を司ってるカダルがホッとした顔をしている。能力は相殺されるものがあるかもしれないけど、全員を選んだのは正解だったようだ。
神々からしたら、つきる間際の寿命分でも大きく力をつけるというのに、俺の寿命まるまる一人につぎ込んだら
「それにしても連れてきたことへの文句もないとは……」
誰かがつぶやく。
それは俺が元々脱走するつもりでいたからだ。十八になって車の免許を取ってから自由が増えた。
免許も車も俺がとりたいというと絶対理由もなく邪魔されるので、車で行った方が楽な場所の旅行雑誌を置くなど、姉が俺に車を運転させたいと思う方向に誘導した。免許は身分証にもなる。
県外の大学に受かった、姉の好きそうな観光地で姉の大学よりランクが落ちる。本当は違う県の大学も受かっている。両親は姉の気分次第で可否を決めて金を出すが、面倒な手続き等は丸投げにされるため、入学金をもらったら姿を隠して縁を切る気満々だった。
「家につけた能力は保証するが、お前自身につけた能力はお前との相性、能力同士というか我らの相性もあるので保証しかねる。十分気をつけるがいい」
ヴァンが最後に釘をさしてくる。
これから『安全で快適な家』に転移される。転移後は姿もこっちの世界に馴染むものに変えて欲しいと伝えてある。
俺は平和に! 快適に! 生活したい!
カダルが何かをして、視界が白い光に埋まる。眩しさに瞬きすると、目の前には石造りの家。周囲を見回せば、眼下には緩やかな丘が続く黄緑から黄色に変わる綺麗な草原に、小さな森がちらばるのが見える。
――どうやら無事、俺の『家』に送られたようだ。
いくつか
家は丘陵地帯の見渡せる小さな山に建っている。遥か先まで見渡せる素晴らしい風景だ。山は広葉樹の豊かな森、建物の周囲に幾重にも別れて縦横に流れる小川が水車を動かしている。
まあ、家というより小さな屋敷とか邸宅っぽい、半分以上は納屋とかだけど。
俺のこっちでの身分は主人も従者も持たない自由騎士ということになっている。しかも領地持ち、もちろんこの土地のことで領民はいない。
一応、納屋の二階に使用人が住めるようになっているが、雇う予定はない。一階は部屋が区切ってあり、一方には搾油機がある。
地下にはなんかでかい壺が半分地面に埋まってる――と思ったらオリーブオイルの貯蔵庫だった。もう一方はチーズを作る場所と同じく地下に貯蔵庫。周囲に巡った小川のお陰か、外よりだいぶ気温が低い。
それにしても【鑑定】便利。水車小屋なんか、日本とは違ってて、わかんないし。
納屋とくっついた家畜小屋もあるが、家畜はおらず空っぽだ。
鍛治をするための炉のついた小屋もある。人を集めて住居をつくれば村としてやっていけるみたい? その気はないけど。
水車は小麦とかを
ここは島よりも季節がもどったようで暖かいを越して暑い、まだ夏なのか。下はさらに暑いのかな? からりとした暑さ。夏場に雨が降らず、冬から春にかけて多少ぐずつくものの、木が育つほどの雨量ではないため草原が広がっているのだ。ただ、この一帯は川が流れているので小さいが森もあるし、麦もよく育つ。
俺は容姿、服装共にこの世界に馴染むものに変わっているはずだ。手を眺めると白い、汚れてて黒いけど。あの着っぱなしの服から解放されて嬉しい。
ずっと役に立ってくれていたノコギリなんかには未練があったが、あちらの世界のものを持ち込むことはあまり良くないというので処分を任せた。これも力に上乗せされているらしい。
「さて行こうか」
腕に抱いたリシュに声をかけて中に入る。
犬が飼いたいと言ってもらってきた。くたびれて弱々しく目の見えない仔犬、でも光の玉の様子がおかしいことを他に知らせてくれた仔犬。
リシュは自分自身を俺に与えたことになる。与えることは守護すること、俺から流れる力でたぶん持ち直すんじゃないかな?
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