街の背景は今日も生きている

@blanetnoir

電車がスピードを落としながらホームに入ると、人混みがこちらを向いて立っている。

同じようなポーズ、同じような服装、ガラス越しにそのシルエットへチラリ目をやり、すぐに目を離す。

ドアが開いたら降りる人が流れ出るように歩き始め、乗る人はぶつからないようにドア脇に身を寄せる。

暗黙の了解で流れる人の動作は、「社会で働く」という共通タグでくくられた人々のマナーだろう。

ホームに降りて改札に向かう流れでは、何故か途中振り返って後ろを向く人、ふとした動作の中で誰かに気づいて視線を送る人など雑多な中にいると、たまに強い視線に当る感覚がある。

誰かの視線。

それは流れ弾のようなものも、あるいは私を識別した顔見知りの挨拶、もしかしたら、誰かの驚きや発見、好意かもしれない。





いつからか、視界に入る眺めは全て背景だと思うようになった。

背景は、話しかけない、こちらと交わらない、目を、合わせてはいけない。



だから、



今日も私は背景の中を歩く一人きりの主人公として、駅を闊歩し通り過ぎる。

行先は職場、あるいは自宅、時折友だちとの待ち合わせ場所。




私が歩く道中の、背景ボードは誰が作ったのか、そして誰が動かしているのか。

そんなことは気づかない体で、飛び込んでくる未知の目線を全てはねのけて、今日も私は街を歩く。

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