6人の呪われた勇者たちと裁定者ベルト その③

第186話 世界会議

 「由々しき問題ですよ、これは!」


 初老の執事風の男が会議室をコツコツをわざとらしく足音を立てて歩く。


 世界的会議。 


 新たなる勇者を精霊が選別するという情報を元に急遽、立ち上げられた秘密会議。


 最初と比べて、人が増えている。 


 新たに参加を表明した王族が、副官、参謀、従者と言われる者を連れてきているからだ。


 今、仕切っている執事風の男も、そう言った新参者ではあるが……いや、新参者だからだろうか? 


 自身が仕える者の発言権を高めようと、自ら嫌われ者を演じ、注目を浴びる。


 そういう腹積りなのは、参加者の皆が気づいている。


 「邪悪なる者、咎人が精霊の力を得て勇者候補になる時点であり得ません。それが魔王軍の残党と繋がっていた? 『教会』は、どう考えているのですか? 精霊の力を管理するための組織でしょ? これは責任問題へ発展しますよ」


 「あ、あの……」と弱々しく手を上げる少女 メイルがいた。 


 「貴方は……当代の聖女ですか。面白いですね。貴方の発言が『教会』の意思という事を忘れてなければ、意見をお伺いしましょう」


 威圧である。 例え『聖女』であろうと、自分が仕切る場で軽々しく発言をするなという考えが見え隠れしていた。


そもそも、この場に『教会』の有力者がメイル以外にいない事、その時点で何者かが『教会』を意図的に排除しようと手を回したのがわかる。


しかし彼女メイル


「勘違いされていますが『教会』は精霊を管理する組織ではありません。 精霊は自然の意思であり、この星の意思です。 その考えは人間の善悪を超越した……」


「ほう……つまり、貴方は自分たちに責任はなく、あまつさえ精霊は深い考えもなく勇者を生み出して世界を混乱しかねない存在だと?」


「―――っ! そういう意味ではありません!」


「違いますかな? 発言は記録されています。誤解無きよう正確にお願いしまう」


「……はい、人間にとっての悪や正義。それを精霊は認識していません」


「それは興味深い。神聖なる精霊が、正義や悪を理解していないと?」


「いえ逆なのです。 正義や悪は人間の1つの側面でしかありません。それを精霊は観測しているのです」


「――――話になりませんな。 記録係、今の聖女の発言は公式な物から削除しなさい」


「待ってください。 まだ話は終わっていません」


「お判りいただけないようですね。これは見解の相違ですよ。

無駄な――――」


 突然、男は口を閉じた。 何か驚いたような表情だ。


「だ、だれが、なにをした?」


その問いに答えたのはメイルの隣に座る男だ。


「何もしちゃいない。ただ、義妹の話を聞かないのなら……お前も喋るな」


「――――暗殺者 ベルト・グリム。殺気を放つか! きさまだって、本来は表舞台に立てる人間ではなかろうが!」


「あぁ、俺はいい。けど、コイツ等はどう思っているかな?」


 ベルトは後ろを指さす。 男は、その時になって初めて気がついた。


 暗殺者と聖女の後ろの席。 彼らもそれぞれが世界に影響を与える有力者たち。


 そんな彼らが、自制する事なく怒りを振りまいている事を――――


「おい、2度も世界を救った英雄とその相棒を侮辱するのは我々を侮辱するのと同じ事と知れよ」


 普段は物静かな武人と言われる将軍が声を荒げる。


「貴方が持つ『教会』の不信感は理解しました。ならば、貴方の国が先行して調査をするべきなのでは? ベルト殿に頼るのではなく……ね?」


 その男は、『教会』と敵対関係にある『魔法協会』の者だったはず。 


「私たち、冒険者ギルドにとって今回の出来事は汚名返上の機会です。当事者である聖女さまの発言を無視しては、冒険者に詳しい説明ができません」 


 今の冒険者ギルドの長は若き女性だ。以前のギルド長は辞職、逮捕となり世代交代している。


「――――くッ! わ、わかりました。わが、国は――――」と男はそれでも発言しようとする。


 だが――――


「もう君の出番は終わりだよ。僕が発言してもいいかな?」


 いくつもの魔法的結界が離れたはずの会場で空間が歪む。 


 「ほう! 魔法的干渉ですな? しかし、このレベルで関与できるとなれば彼ですな」と『魔法協会』の代表者は口にする。


 「うん、正解。僕だよ。流石は『巨光たる賢き者』だね」


 空中に現れた魔法的映像。 


 それに投写された人物は、この世界で最も強い発言権を持つ男だった。


 つまり――――


 勇者カムイが姿を現した。

 

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