第166話 怪しげな情報屋

 流石にドレス姿で街を闊歩する予定はないらしい。


 女性陣は馬車で着替えをすませて出てきた。


 もしも、帰宅時にもドレスアップして旅路を堪能するつもりならば、俺の正装も準備しておいてほしいものである。


「あら? もちろん、ベルトの分も容易しておいたのだけど」


「……それをどうして、到着した時にいう、マリア?」


「私が着るように頼んでも嫌がる事を予想して、帰りに自分から着たがるように仕向けたのよ」


「要約すると?」


「趣味と実益を兼ねそろえた嫌がらせ」


「あぁ、知ってたよ」


そんなやり取りも簡単に済ませ、さて――――


「当然、聞き込みよね? 幸いにして、こんな貴族まるだしの馬車で街中をはしったのだから欲しがる情報を届けてくれる親切な人を沢山やってくるわ」


「?」と頭上に疑問符を浮かべてくると、


「ぐへへへ…… 見たところ貴族さまとお見受けいたしやした」


本当に来た!? 路地から顔だけを覗かせている怪しい男だ。 


「そうね。私が欲しいのは、凄い力を持った人物。それも……まるで何か目覚めたような力を……ね?」


マリアは慣れた手つきで金貨を親指で弾いた。


それを男はキャッチする。 すぐさま金貨を確認すると、


「これは……ベルト金貨!? こいつはスゲェや」


「いや、待て。今、なに金貨って言った?」


「あら? 金貨になった本人は知らなかったの?」


「金貨? 俺が金貨化してるのか?」


「まぁ、フランチャイズ家は金融機関にも携わっているので、通貨の発行も思いのままなのだけど」


「お前が作ったのか!? しかも流通済み……だと?」


「そんな事より、情報屋さんの話を聞きましょう」


自身の姿が彫られた貨幣が自分の知らない所で流通している事実を『そんな事より……』と言われ、何も思わぬわけがないベルトであったが、情報を優先させることにした。


「急激に力を有してきた冒険者なら、何人かわかりやすが?」


「そうね、この場合は努力した結果、成果に結びついたとか、そう言うのじゃないの」


「へぇ、そう言いますと?」


「ある日、突然、魔法を使えるようになったとか、規格外の武器を手に入れたとか……そういう人物が、冒険者の頂点に立ったとか……近い内にそうなりそうとか……要するに英雄の誕生の兆しってやつね」


「いやいや、貴族さま。それはあり得ませんよ。英雄クラスの冒険者が現れたら、他国にまで騒ぎになりますよ。ただね……」


「ただ? 何よ?」とマリアは続けて2枚目の金貨を投げた。


「へへへ、ありがとうごぜぇますだ。ただ、若い冒険者で1人だけ……おっ!コイツは実力を隠してやがるなって奴がいますね」


 「ふ~ん、おもしろいじゃないの」


 「満足していただける情報でございやしたか?」


 「そうね、私が町に来て、誰よりも早く接触してくるような優秀な情報屋さんでも実力を見抜かれない若い冒険者……貴方にとってイチオシの情報なのでしょね」


 マリアは、それ以上は何も言わずに3枚目の金貨を投げた。


 「これはこれは失礼いたしやした。アッシの予想よりも相当な大物貴族と見受けしやす。では、ご案内いたしやそう。若き冒険者 イサミの所へ」   


 

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