第165話 馬車に揺られて
最初の目的地となっている勇者候補の場所。
一番、近場を選択したので、馬車で半日ほどの距離だ。
ベルトは馬車に揺られ、外を眺める……
(空気が重い)
ドレスという正装で決めている3人。
おそらく、主犯はマリアだ。悪戯的サプライズなのだろうが……
馬車の中は、狭いとは言えないが動きが制限される距離感。
そんな中、ベルトだけ普段着。 普段着というよりも戦闘服だ。
自分が、酷く場違いな感じがして、居心地が良くはない。
そんな心情を察したのかもしれない。 最初に動いたのは意外――――メイルだった。
「あっ! そうだ。義兄さん、お弁当を作ってきました。いかがでしょうか?」
「ん? そうだな。朝が早かったから、まだ何も食べていなかったよ。いただくとしよう」
メイルが用意した弁当はサンドイッチだった。
1つ手に取り、口へ運ぶ。
「うん、おいしいよ」
「本当ですか!」と花が開いたような笑顔を見せるメイル。
それから「こちらもどうぞ」と手渡された飲み物で喉を潤す。すると――――
「これはメイルちゃんが一歩リードね」とカレンが妙な事を言い出した。
ぴきぴきと空気が軋むような異音が聞こえてくる気がする。
「いいですか? メイルちゃん、この戦いに私以外に勝者が生まれるとしたら、他の2人ではなく、実妹であるメイルちゃんに勝ってほしいのよ」
「何を言っている?」と突っ込みたくなったベルトだったが、
真剣な顔で見つめ合う姉妹に何も言えなくなった。
そんな奇妙な姉妹愛に対抗すべき動く者もいた。それはシンラだ。
「ふっ、権謀術数の化身と言われる私がお弁当で後れを取ると思ったか!」
ドーンと効果音を口にしながら取り出したお弁当箱。
握り飯を中心にして焼き鮭、卵焼きに茹でた野菜。
「へぇ、意外と料理ができたんだな」
若干、失礼なベルトの発言ではあるが、そもそも女性という事を隠して活動していた男装の麗人シン・シンラのそういう一面が新鮮に映っていた。
「……す、すまないが、そんなに近づかないでもらいたい。男性にドレス姿を見られるのは、もう少し慣れが必要だ」
「お、おう……」
視線を逸らして、差し出されるお弁当を可能な限り手を伸ばして食べるという変な体勢になってしまった。
そうしていると――――
「ぐふふふ……真打登場ね」とマリア。
「私のお弁当は……その、なんていうか。お弁当のスケールが違うわ」
「お弁当のスケール?」
「そうよ」とパチっと指を鳴らすマリア。 すると、控えていた従者が現れ、テキパキと準備を開始する。
「どう! これが、私! マリア・フランチャイズの本気お弁当よ!」
「……いや、これはお弁当とは言わないのでは?」
普通に目前にコース料理が並んでいた。
メイルとシンラの弁当を食べた後に、これはキツイ。
しかし、冒険者という者は大食漢だ。
食べると時に食べる。そうでないと、食べれない時は死を意識するほど食す事ができない。
ベルトのように勇者パーティの一員になってくると、2~3日の断食を経験する事なんて日常茶飯事だった。
だから、食べる。 ベルトは黙々と食べて見せた。
さて――――
そんな、こんなで最初の目的地に到着した。
最初に出会う勇者候補。 一体、どんな人物なのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます