第162話 ベルトの実家にて

 『薬局 カレン』


 中心部から少し離れた郊外で自宅の一部を改装した薬局店だ。


 ……そのはずだった。


 「ここは、本当に俺の実家なのだろうか?」


 「すっかり変わってしまいました。にぎやかになりましたね」とメイルは楽しそうに言うが、ベルトはそういう事を言っているのではない。


 「いや、俺の実家がバラ園みたいになっているのだが……」


 平凡な一軒家の周りには綺麗な薔薇が咲き誇っている。


 その中で、少し開けた空間にお茶とお菓子と楽しんでいる集団。


 最近、あまり聞かなくなってきた女子会というやつだろうか?


 その中心にいる女性に向かってドカドカと近づいいたベルトは。


 「おい、悪役令嬢、なに人の家を改造しつくしてやがる!」


 「あ、悪役令嬢ですって、久々に会っての一声がそれなの!?」


 悪役令嬢あらため、貴族商人のマリア・フランチャイズは声を荒げた。


 「久々も何も、毎日のように来ていると思うが……いやいや、そんな事より、この薔薇はなんだ?」


 「あら? これの事? 前々から店の周辺が殺風景だと思っていたのよね。だから実家の庭師にお願いして……」


 「だからって、店の周辺を薔薇園にするんじゃない。 というか土地はどうした? 明らかに庭の面積が増えてるじゃないか!」


 「もちろん、買ったのよ。 買い叩いてやったわよ」


 「ご近所さんの土地を買い占めるだけで町内会で問題になりそうなのに、買い叩くんじゃない」


 「……驚いた。今更、世間体を気にしていたのね? 超有名人のクセに」


 それを言われると「ぬぐぐぐ」と言い返せなくベルトだった。


 言い返せないので、矛先を変えてみた。


 「ダメじゃないか、シルフィド。 君を雇っているのは、この悪役に好き勝手をさせないって意味もあんだぞ?」


 ベルトは自分の従業員で、なぜか今は執事服に身を包んでいるシルフィドを労うように肩を叩いた。


 「ちょっと、私の対応に差がずいぶんと離れているじゃないの!」とマリアの言葉は聞かない事にした。


 「シルフィド、世界規模で今後を左右する重大な局面が迫っている。 主だった関係者を呼んでくれ」


 緊急性の高さを理解したのか、一礼すると素早くシルフィドは姿を消した。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 すれからすぐに、集められた面子。


 ベルトとメイルは当然だが。


 『薬局カレン』のオーナーであるマリア。


 ベルトの元弟子兼配偶者であるカレン。


 先の大戦で一番槍の功績者、ノリス。


 闘技者代表兼元勇者パーティ一員 キング・レオン


 さらに元勇者パーティの主力メンバーの3人。


 『癒しの姫』 マシロ・アイフェ


 『超前衛戦士』 アルデバラン


 『東方の方術士』シン・シンラ


 僅かな時間で本来、集まる事のない面々が集結した。


 そして、ベルトの実家。それも狭い一室に集まった光景は


 「……集まりすぎだ。狭すぎる!」とベルト。


 「お前ら、いつの間にか近所に住んでいるのか!?」


   

 



  

 




 

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