第163話 会議のようなもの

 会議。


 それを表現すると、混沌を極まていたというやつだった。


 6人の勇者候補、カムイと同等クラスの人間が6人も出現した。


 その事実は直接、カムイを知る人間にとって脅威的であり、対峙した時にどう戦うべきか? 議論は白熱するが……


 「いや、別に俺は勇者候補生と戦うつもりもない。……というか、なんでお前らも一緒についてくるつもりなんだよ?」


 そう言うと、周囲を唖然とさせた。 それに口を挟んだのは勇者パーティの軍師的立場のシンラだ。


 「危険だ。カムイと同じような力を持つ相手なら、お前だって負け……ないにしても、怪我をする可能性がある……はずだ」


 「そもそも、戦う前提がおかしい。俺の役目は、相手が勇者に相応しい奴だった場合、次世代勇者決定戦への招待するだけだぞ?」


 「その相手が、もしも勇者に相応しくなく……むしろ邪悪な意思の持ち主だと判断したら? 戦いを回避するのか? お前が!?」


 「まぁ、力に溺れて、人々を傷つける奴なら当然……よ」

 

 「そうだろ? だから、私がついて行くのは、当然だろ? なんせ勇者の力を知り、なおかつ謀を企む相手を看破するのに私以上の適任者が……」


 「いや、そういう悪い奴だった場合、うちには『聖女』のメイルがいるので間に合っている」


 「……」とシンラは無言で着席した。


 「そうですか、私は不必要ですか」と再び精神が闇に汚染されそうになっているが、後でメイルに『浄化』させようとベルトは思った。


 「それじゃ、ベルトさん」と立ち上がったのはノリスだ。


 「なんで俺たちを呼び出した? アンタの口ぶりだと、最初からメイルと2人で挑むみたいな感じだが?」


 (……言えない。 適当に近場にいる関係者を集めるように頼んだ人物シルフィドが、想像をはるかに超える有能ぶりで人を集めてしまったなんて……)


 「うむ、それは……」とベルトは言い訳を考えながら話す。


 「今回の旅は、おそらく長くなるだろう。 しかし、俺がこの依頼に取り掛かっている最中に世界の危機が訪れないとは限らない」


 「――――!?」と皆、一同に厳しい顔になる。


 なんせ、魔王とか冥王とか言われる連中とガチで戦ってきた連中だ。


 世界の危機という言葉に敏感だったりする。


 「その時に、世界の危機に俺が関われない。その重要性を、それから具体的な対策として共有する情報網を築き上げてほしい」


 (よし、無駄に大きい事を言っておけば、好戦派連中は黙るはずだ!)


 「そういう事なら仕方ありません」とマシロ。


 「あぁ、留守番は任せておくんだな!」とアルデバラン。


 「ぬぐぐ……仕方があるまい」とシンラ。


 勇者パーティは渋々と同意した。そんな様子に――――


 「では、皆様方」と声をかけたのはマリアだ。


 「暫く、この地に滞在される事になるのでしょ? ならば、地元の有力者たる私、マリア・フランチャイズが……いいえ、フランチャイズ家が皆さまのお手伝いをさせていただきます」


 マリアが貴族ではなく商売人の顔をして言ってる。


 (アイツ、勇者パーティと太いパイプを繋いで、何かとただ働きさせるつもりだ!)


 そう思ったが、ベルトは黙っておくことした。


 ベルトにとって、今回の依頼で障害になるのは、薬局のオーナーであるマリアだったりする。


 具体的には、冒険者としての活動で有給休暇の有無はマリア次第なのだが、この調子ならすんなり行きそうだ。(そのためシンラたちには、働いてもらおう)


 えんもたけなわ……と言うには、意味が間違っている気もするが、とにかく会議もひと段落ついて終わりを――――


 そう思っていたタイミングで静かに手を上げる者がいた。


 それは―――― カレン・グリムだった。


  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る