第150話 最後の休息


 ソルは去った。 この世から……


 彼が残した爪あとは大きい。 世界に広がる冒険者ギルドのあり方を変えてしまうほどの騒動を残した。


 世界を崩壊させるのは程遠い報酬かもしれないが、それでも1つの組織を崩壊させるほどの力は有していた……という事なのだろう。


 だが、しかし、世界は崩壊しない。


 勇者が、魔王が、人類の裏切り者も、世界最強の存在も、ついに世界の崩壊を見ることはできなかった。


 今日もまた、正確な時計の針と同じで世界は回り、世界を動き続ける。


 規則正しく、チクタクチクタクと音を刻み――――



 「それじゃ行ってくる」と朝食を終えたベルトが呟く。


 朝早く出かけ、夜遅く帰ってくる生活。 家族に囲まれながらも一人で生活しているかのように孤独な生活。


 最近では会話も短く「あぁ」とか「そうか」とか、呻き声と聞き間違えるほどに小さくこもっている。


 そして、今日も1人で家を出――――


 「いい加減にしなさい!」


 怒鳴り声と共にベルトは倒れた。


 殴り倒されたのだ。 それも、後頭部を拳でフルスイング。


 「何を……何をするんだ?」


 立ち上がったベルトは後方を見る。 殴った相手はマリア・フランチャイズだった。


 「何をするんだ? それはこっちの台詞よ! 貴方は何をしてるの?」


 「俺は、カレンを探している」


 「貴方……死ぬわよ」


 「……なにを?」


 「呆れた。分からないの? 貴方、私に殴られたのよ? 世界最強の暗殺者であるはずの貴方が貴族風情の私に」


 「俺は弱っているのか?」


 「そうよ。万全の貴方なら、後頭部をスパーンって私から殴られないでしょ?」


 「そうか。このままダンジョンに潜れば死ぬかな?」



 そういうとベルトは床に転がり天井を見つめた。



 「たぶん、死ぬわ。 だから、今日は素直に寝ておきなさい」


 「すまん、迷惑をかけたな」


 「あら? 今日の事? それとも、長々と私の店を放っておいてた事?」


 「それは……どっちもだ」


 「そう、まぁ謝るなら、私じゃなく妹たちに謝りなさい。 自分たちじゃ貴方を甘やかすからって私の所に頼みに来たのよ。貴方を叱ってくださいってね」


 「ははは……ずいぶんと心配をかけさせちまったな」


 「そうね。とにかく、今日はこのまま体と休めて、まともな食事を取って、休息を取る事。いいわね?」


 「そうだな……」とベルトは瞳を閉じて寝た。



 「ちょっと、ここで寝て誰がベットまで運ぶのよ?」


 そんな声も聞こえてきた気がする。

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