第144話 魔王の目的とお姫様抱っこ


 「マシロ姫!? そんな彼女が魔王の手助けを? ありえません」


 混乱するメイル。だが俺は――――


「ありえん話ではないさ。なんせ、彼女と勇者は恋仲だったのだからね」


「そ、そうだったのですか!?」


「魔王の肉体は勇者のそれだ。 勇者を人質にされれば、国を、世界を裏切りかねないほどに……彼女は信仰していた」


「し、信仰? 恋人同士だったのでは?」


「そうさ。恋人同士だったが、彼女の眼には信仰者のソレが宿っていたように俺は見えたね」



そんな会話に魔王が「くっくっくっ……」と笑いながら口を挟む。



「おいおいワシを無視をするなよ。それに彼女に失礼ではないか。


 なんせ――――世界を滅ぼしてもいい。それほどの信念をもっての大恋愛に挑んだのだからな」


 

その言葉に、俯いたままマシロ姫は顔を上げる。


「――――ッ!」と何かを言おうとしたが、それでも声を出さなかった。


何を言っても意味がない。言い訳にしかならないと思ったのだろう。


だが、俺は彼女に向い――――


「大丈夫だ。俺が何とかする」



できる限り朗らかな笑みを浮かべてみせる。


それから視線をできるだけ鋭くして魔王に向う。


「それで、これは一体なんのつもりだ? 私怨か?」


「私怨? ん? 何のことだ?」 


「俺たちが魔王軍を滅ぼした。 お前の野望を砕いた。そのための復讐ではないのか?」


「いや、お前に魔王軍を滅ぼしてもらうのは計画通りじゃったからな」


「――――ッ!? 何を? 何を言っている?」


「そうか。誰にも言っておらなかったな。ワシの目的は世界を滅ぼす事だ」


「世界を滅ぼす? どういう事だ?」


「ワシ……いや、私は昔、ただの人間だったと言ったら信じるますか?」


「……」


「信じられないでしょ? 世の中には魔王を称える人たちによって人柱にされた少女だったのよ。依り代として選ばれたのだけど、逆に魔王を殺しちゃったのよね」



それまで、しゃがれた老人の声が若い少女の物に変わっていった。


「わかる? この世界で魔王を望んでいたのは、普通の人だったのよ? 普通の人が私を殺したの。だから、私はその人たちを……家族を殺したの…… ついでに魔王もね。


だからね。だからね。だから、私は世界を滅ぼすの」



圧力


が増していく。 戦闘の始まりを告げる合図。



「いくぞ! メイル!」


「はい!義兄さん!」



今までメイルとパーティを組んでいたの家族と義理とか、そういうのではない。


全てはこの時のため。 彼女には可能性があった。


彼女と一緒なら、あるいは――――


魔王の精神だけを打倒して、なおかつ勇者カムイを救い出せる。


そう思い教え、鍛え、今に至る。


タッタッタッと小走りでベルトに近寄ってくると、彼女は軽く飛び上がる。 


そんなメイルをベルトは受け取り――――



「いくぞ魔王! ――――いや、何者でもない過去の亡霊よ!」



横抱き……所謂、お姫様抱っこでベルトたちは魔王に挑む。

 


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