第142話 魔王の隠れ家
「そうそう気がついていましたか? 竜王の死骸ダンジョンの不死騎手……アイツ、フェリックスの変装だったってことを?」
「……」
「うちの魔王さまが好きなんですよね。運命とか、伏線とか……結局、死に設定になったんですけどね……あっ、聞きたいですか? 他にもいろいろ仕込んでいて使えなくなった設定みたいな話」
「……」
「中々、話に乗ってくれませんね。 わりとベルトさんたちに取って衝撃的な事実を教えているつもりなのですが……一言もしゃべりませんね」
「……」
「ねぇ、ねぇ、何かおしゃべりしましょうよ。僕、無音は嫌いなんです。長い道中を無言で進むのはちょっと……」
「……」
「それじゃ、戦争のあとに姿を消した魔王さまが、どうしていたのか教えましょうか?」
「……」
「ちょっと、無言は止めて下さいってばぁ!」
「……」
ヘルマンの言葉にベルトは無言だった。
ベルトだけではなく、彼の背中に隠れるようについてきているメイルも無言……というよりも様子を窺っているようだった。
先頭を歩くヘルマン。
それについていくベルトとメイルの3人。
さて、どうしてこうなっているのか? それは1時間前に遡る。
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場所は薬局『カレン』 そこに突如として現れた魔王四天王、最後の1人であるヘルマン。
可愛らしい少年のような風貌をしたへルマンは敵意などないようにベルトたちを誘った。
「近隣に魔王さまが屋敷を建てました。ベルトさまにも招待を申し付けられ訪れたわけです」
「魔王が住んでいるのか? この近くに?」
口に出してみると荒唐無稽さが強まる。しかしヘルマンはニッコリとした笑顔のまま―――ー
「その通りですよ?」
簡単に認めた。
ベルトは困惑する。 100%断言できるほどの罠。
しかし、いかないという選択肢はない。
「マリア、もしも俺が帰ってこなかったら……」
「えぇ、冒険者ギルドには伝えるわ。……なんだったら今からでもシルフィドたちを走らせてもいいわ」
「……いや、今から冒険者ギルドに行くのは危険かもしれない」
敵の狙いが戦力の分散。 そして、人質としての利用の可能性。
俺はマリアたちに、家から出ないように告げる。
平凡な自宅に見えるかも知れが、それなりの備えはしている。
もしもの時は、数百の敵に対しても十分に篭城が可能な堅城に早変わりする改造を施している。
もちろん、それはマリアたちを含めた家族や友人にも事前に知らせていて、知らないのは家主である父親くらいなもんだ。
「ご相談は終わりですか? 早く向いましょうよ」
ヘルマンは急がすように言う。
俺は――――
「いくぞ、メイル」
背後から勢い良い返事が返ってきた。
それが10分ほど前の話だ。
「見えてきましたよ。あそこで魔王さまはお待ちになっています」
ヘルマンが指差す方向を見て「これはずいぶんと舐められたもんだな」と俺は悪態とつく。
いくらなんでも近すぎだ。
俺の自宅から徒歩10分の場所。 こんな近場に隠れ住んでいたなんてな。
最大火力をもって屋敷を吹き飛ばしてやろうか?
そんな事が脳裏に浮かんだが、なんとか堪えた。
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