第141話 平穏に終わりを告げる客
戦争は終わった。
魔族たちは、今までどおり北に僅かな領土を与えられ、その領土の代わりに資源を定期的な譲渡。
結局、魔王は戦場に姿すら見せず、死亡説が流れている。
某国に亡命したなんて噂もあるが…… 現状では生死不明である。
そうして世界は平和を取り戻した。
一方のベルトたちは――――
「いいですか? あの魔物はスライムと言って最弱の魔物と言われていますが……」
メイルは息を殺し、スライムに近づくと――――
「とう!」と裂帛の気合を込めて杖を振り下ろす。
奇襲の一撃はスライムを昏倒状態を引き起こした。
緊張をほぐすように息を吐くと「どうですか? 簡単でしょ?」と笑みを見せた。
メイルの背後には数人がいた。
彼らは冒険者ではない。 年齢も性別はまばらであり、不思議な集団になっている。
メイルが行っているのは、もしも魔物に襲われた時の護身術のようなもの。
魔王との戦いが終わり、今まで魔族と戦っていた魔族狩りと言われる冒険者たちが積極的にダンジョンに潜るようになっている現在。
ダンジョンは比較的安全になった。 なんせ、1層2層辺りには大量の冒険者がうろついているのだ。
その結果、『ダンジョンを生活の資源を採取する場所から、観光地へ!』なんてヤバイスローガンをあげている団体が生まれてしまった。
ちなみに、その団体の代表はマリア・フランチャイズという名前だったりする。
「どうでした? 義兄さんから見ても上手にできていましたか?」
観光客のツアーの役目を終えたメイル。 集団の後ろで護衛をしていたベルトの元に駆けつけてきた。
まるで、その姿はご主人さまに褒めてもらうとする忠犬を連想され、ベルトは無意識にメイルの頭を撫でた。
最近、実妹のノエルから「メイルちゃんのこと甘やかせすぎなのでは?」と言われた気もしたがメイルが気持ちよさそう顔をしているので忘れる事にした。
「しかし、平和になったな」
「……ん そうですね。 義兄さん」
ベルトとメイルはダンジョン巡りを終えて帰路につく客の見送り、そう感想を呟いた。
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我が家でもある薬局カレン。そこに帰宅すると声をかけられた。
「あらお帰りなさい」とマリア。
「はい、ただいまです」と几帳面に返すメイル。
「お前、本当に毎日くるんだな」
「その言葉、何回目かしらね?」と笑うマリア。 それに合わせて――――
「マリアさまは、この店のオーナーです。毎日訪れるのは当然かと」とシルフィド。
「そうにゃ! そうにゃ!」と新しくマリアの配下(?)に加わった獣人のミケラエルも言う。
これがベルトの日常になっている。
しかし、日常というものはいとも簡単に壊される物でもある。
そして「コンコン」と珍しく扉を叩く音が聞こえる。
「はいはい」とベルトは前掛け
をして扉を開けると――――
「久しいですね。ベルトさん」
扉の前に立っていたのは少年だった。 10歳くらいで、天使のように可愛らしい笑みを浮かべる少年。
ベルトに心当たりは――――なかった。
「おやおや、この姿でお会いするのは初めてでしたね」
若干、慇懃無礼にも感じる少年は頭を下げ、自己紹介を始めた。
「僕の名前はヘルマン。魔王四天王、最後の1人……人狩将軍 ヘルマンです」
どうやら、ベルトたちの平穏は終わりを告げたようだ。
新しい……そして最後の戦いが始まる。
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