第140話 魔王軍敗北 魔王の目的


 フェリックスの突き。


 鋭い突きだった。しかし、ノリスは軽々と短剣で叩き落した。


 さらに踏み込み、間合いを詰める。 


 フェリックスには迫り来る短剣が煌いて見えた。


 そのまま、胴に強烈な一撃が叩き込まれた。


 響いたのは金属音。


「ぐがぁ……」と息を吐き、片膝を地面に着ける。


 フェリックスは軽装。だが、軽装なりに下に防具を身につけている。


先ほどの金属音は、鉄製の防具を叩いた音だった。


しかし、刃厚の短剣から繰り出されたノリス渾身の一撃。


軽装の防具などでは耐え切れる道理はなし。


フェリックスは切断された鎧を確認するように手を触れる。


斬鉄


押さえた手を退ければ、胴体が斬り落ちてしまうような感覚。



「まさか……こんな、軍師である私が……何もできずに戦場で軍を動かす機会すらなく……」



 フェリックスは振り向いた。


 背後には巨大な竜王ゾンビがそびえ立つ。


 それは安堵感を与えれてくる。



 「自分が、ここで滅んだとしても竜王ゾンビが存在する限り、我が魔王軍に敗北はありえぬ」


そう声に出しながら、必勝を確信しながら――――


その時だった。 竜王ゾンビの崩壊が始まったのは。


その光景を理解できなかったのだろう。 フェリックスは、崩れ落ちるドラゴンゾンビの肉体の下敷きとなり―――― 戦場から姿を消した。



 竜王ゾンビの崩壊。


 軍師 フェリックスの戦死。


 元よりに3分の1の兵力しかない魔王軍は、切り札を失った。


 後は水が上から下に流れるが如く――――



 ・ ・ ・


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・




 「我が軍の敗北が決定しました」


 

 魔王の前、ソルは珍しく緊張した顔持ちで報告した。


 魔王の返答は「……そうか」と短く笑っていた。



「全ては計画通りだ」



ソルはゴクリと喉を鳴らした。 


何が計画通りなのか? これで魔王軍は崩壊。 


有力な魔族の多くが戦死。 生き残りも徐々に力を失っていく。


そこでソルは気づいた。 


「貴方様の目的は、魔族の全滅を?」


ありえない目的。 誤れば、その首をあっさりと切り落とされるような愚問。


しかし、そうはならなかった。 それは肯定の証。


だが――――



「いいや、違うね」と魔王は笑う。



「目的は魔族と人間。その2つの絶滅。そして、世界を崩壊させる」


ソルは魔王の言葉が理解できなかった。


しかし――――


「どうした? 笑っているぞ?」


「笑っている? 私が?」


「あぁ、笑っているとも、むしろ、笑え。そんなお前だからこそ、人間でありながら私の側近であることを許した。 同じ人種だよ、私とお前は」


ソルは自分が笑っているのか、泣いているのかわからなくなっていた。

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