第139話 ノリス対フェリックス


 一方、竜王ゾンビの周辺。


 ノリス対フェリックス。 その戦いは一方的だった。


 ノリスは笑っている。顔だけではなく全身が血に濡れている。


 当然、返り血……ではない。 


 膨大な傷。 出血多量で意識も朦朧としながら、それでも立ち続け、戦いを止めない。


 しかし、そんな一方的な展開でありながらもフェリックスの顔には焦ると苛立ちが浮かんでいた。


 「こやつ! どれだけ受けても倒れぬ……いや、離れもせぬ! 不死身か!?」


そういいながらも振るった杖の一撃は、吸い込まれるようにノリスの腹部へ。


強打を見舞いする。 だが、やはり、それでもノリスは倒れない。


倒れどころか反撃をしてくる。


「せい!」と裂帛の気合を入れて振るった短剣。


その剣技は――――



「そのような拙い剣捌きで当たるか!」



フェリックスは自身の発言どおりに軽々と避け、カウンターで頭部を狙う。


鈍い音が周囲に響いた。――――が、ノリスは動くのを止めない。


ノリスは槍使いだ。 強く速くと修練を積んだ突きは他の者の追随を許さない。


だが、彼のサブウェポンである短剣は違う。


不死属性の魔物を倒すための武器。


ワラワラと視界に隙間なく押し寄せてくるゾンビの集団をなぎ払うための武器だ。


武の理合もなく、獣の牙や爪のように触れる者がいれば殴るように斬る。


技として洗練される余地もない野獣の如く攻撃。


未熟な者なら、その荒々しさに恐れおののくかもしれない。しかし、ある程度の武を有した者にとって、それは素人にしか見えないほど拙いものであった。


だから、ノリスの攻撃はフェリックスに通じない。


逆にカウンターを放たれて尋常ではないダメージを受けている。


だが、ノリスは倒れない。 


対不死者の専門家。 それは持久戦の専門家でもある。


相手は一昼夜構わず襲い掛かってくる疲れ知らず共。


そして無限のよう増える敵数。


それらを相手に戦い続けることができる事のできるタフネスをノリスは有していた。



「いい加減に倒れい!」



再び見舞われる突き。 


距離さえ取れば魔法で塵すら残さぬ。それが分かっているからこそ、自然と突きが多くなっていくフェリックス。


そもそも彼は戦士として戦うために戦場にいるわけではない。


魔王軍の指揮を執るためにいるのだ。 だが、ノリスが纏わりつくように攻めてくるため、軍に的確な指令が出せずにいる。


今回のように数が多い敵軍を相手の戦いこそ、自身の真骨頂だと理解している。


だからこそ、苛立ち。 自分の戦いが魔王さまから頂いた軍を動かせず、敗色が濃くなっているのが分かってしまうからこその苛立ち。


だから、突きを多様してしまっている。


生粋の槍使いを相手に―――― よりによって突き技を――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る