第132話 戦場 そして一番槍


 進軍する魔王軍。 


 その指示を取っているのは当然ながら参謀であるフェリックスだ。


 彼の元に伝令が届けられた。


 「前線からの我が軍は優勢。敵軍は後退を開始しております」


 その言葉にフェリックスは小さく頷いた。


 この動きは作戦通りだ。


 敵軍は数が多い。 前進を続ける我が軍に対して、敵軍は他国の勢力が合流して取り囲む戦術でくるのは容易に読める。


 「異界で言うところの釣り野伏か。あるいは……」


 「はっ」と意味がわからず伝令兵が顔を上げる。 しかし、フェリックスは構わず独り言を続けた。


 「必要なのは高い兵の練度。……ならば、すでに読まれていた? いや、情報が漏れていたと考えるべきか?」


 「しかし――――」とフェリックスは背後を見る。


 軍の後ろには巨大な影。 ルークの魂が定着してゾンビ化した竜王。


 「無限の兵力を前に人が抗うことができるかな」


 フェリックスは笑う。しかし、その最中だった――――



「なんだ? あれは?」


 彼は空を見上げた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 キルト・D・ノリスは対不死者の専門家だ。そして槍兵でもある。


 竜王の死骸ダンジョン――――竜王ゾンビへの一番槍は当然であるかもしれないが……


 間違いなく誉である。


 敵地のど真ん中。 味方は誰もいない。 狙いは敵の最大戦力。


 それらを胸にノリスは落下する。


 そう落下である。 高所から飛び降り、空気抵抗を殺すために頭から落下。


 装備はいつも通り。 手にはいつもの槍を1つ。



 槍に技はなし


 だからこれは技ではない。 


 重力によって加速に加速を加えられ、竜王ゾンビに狙いを定める。



 投擲。



 狙い通り、真下にいる竜王ゾンビに向かい槍は一直線に放たれ――――


 その頭部を貫いた。


 「咲き乱れろ! 聖樹よ」


 突き刺さった槍に変化が起きる。

 

 聖樹の枝から作られた槍は、持ち主の声に反応。


 竜王ゾンビの頭部に一本の木が生えた。 聖樹が本来の形状を取り戻した。


 果たして、その効果は?


 破邪の力は竜王ゾンビを中心として戦場全体に広がっていく。


 戦場が静止した。


 破邪の効果は魔族や魔物の動きを鈍らせ、動きすら取れぬ者まで現れたのだ。

  

 動きを止めた魔物に兵士たちは勢いを増す。

 

 「もって10秒。ベルトさん、頼みました」


 ノエルは自分が落下してきた上空。


 ベルト・グリムがいる場所を見上げ、それから二本の短刀を抜いては戦場を駆け出した。


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