第118話  ―――ここではないどこか――――


  ―――ここではないどこか――――



 フェリックスが姿を現し「ルークが先に逝きました」と報告がおこわなれた。


 「……」と魔王は無言で報告を受けた。その表情からは内面は窺い知れない。



 「不死身が一番に逝く……か」



 やがて誰に聞かせるわけでもなく、ポツリと呟いた。



 「なぁ、フェリックス。アイツは死にたがっていたんじゃないのか?」


 「わかりかねます。常人なら兎も角、武人の心情なんぞ私には遠いものなので……」



 「それと」とフェリックスは付け加える。



 「ルークの魂がダンジョンに定着しました」



 その言葉は魔王に取っても想定外だったらしく「なに!」と勢いよく椅子から立ち上がった。



 「ままならぬものだな。ここに来て計画が成功するとは……」


 「おそらく、ルークの忠義心ゆえの成功かと」



 「はっはっは……」を魔王は力なく笑う。



 「遊戯で立てた計画が忠臣の死によって完成させたか。……ならばよし。フェリックスよ。ルークの計画を引き継げ――――」



  「直ちに……残された竜王アンデッド化計画。必ず、やり遂げてみせましょうぞ」



 『竜王アンデッド化計画』



 ルークの本体を心臓代わりにして、地下資源である化石燃料を汲み上げ、竜王の死骸に血液に見立て循環させる。


 死骸となり、ダンジョンに成り果てた竜王の擬似的な復活劇。


 それが魔王たちの思惑の1つだった……


 そして、もう1つの思惑は――――


 

 「それで首尾はどうだ?」



 「気づかれてはいないかと……」というフェリックスは一度、姿を消した。


 それも一瞬の事。再び姿を現したフェリックスの肉体は変化していた。


 その姿は――――


 不死騎手



 「うむ……まるで別人だな」


 「はい、人格そのものを新たに作り直した。ベルトの≪致命的な一撃≫でも、正体を掴めることはないでしょう」


 「しかし……その結果、ルークを倒すための武器を与えることになりましたが……」とフェリックスは続けた。

 それに対して魔王は――――


 「それは結果論にすぎぬ。それに……」


 「それに?」


 「先ほども言ったが、ワシにはルークが死に場所を探していたように見えた。不死身ゆえに死へ憧れていたのかもしれぬ……そんなあやつが、存在を滅ぼされ、あらたな竜王として蘇ろうとしているのは……皮肉と言うものだな」


 小さく笑う魔王の心情を読めず、フェリックスは「……」と沈黙を続けた。


 

 

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