第117話 ルークの断末魔


 「……行くぞ! パイルバンカー!」



 ベルトが装備した巨大な杭打機。けたたましい駆動音を鳴り響かせ、ルークの心臓を捉えた。


 巨大な本体には、いくもの亀裂が走り、巨大建築物が倒壊するような軋む音。


 それらの異音はルークが命を搾取した者たちが怨嗟の合唱を鳴らしているのかもしれない。


 そしてルークの口からは断末魔が漏れ出す。



 「……やった……のか?」



 地上からノリスは見上げながら呟いた。


 しかし――――



 ルークは断末魔を飲み込み、目を見開いた。


 「落ちる。零れ落ちる。私の両手から命の対価が、生命の金貨が零れ落ちていく……終わるのか? 私の命が?」



 まるで大根役者のような大げさであり、滑稽にすら見えるはずのソレ。


 しかし、滅びよく肉体と――――相反する爛々とした活力を秘めた目が見る者を釘付けにするような魅力があり――――



 「――――否。 否、否、否、否、否、否、否。 断じて否だ! ベルト・グリム!

 私を滅ぼし終わるまで10秒間、貴様も私の心臓を貫いたまま動けまい。ここで私の命が滅ぼされようとも、私の忠義が貴様を倒す! ラストバトルだ!」



 ここに来てルークの圧力


が上昇する。


 肉体が滅びよく事により、首なし騎士


の側面よりも本来の吸血鬼


としての側面が強くなったのだ。


 ルークは、それまで小わきに抱えていた自身の頭部を鎧の首に合わせて接続させる。すると――――


 片目に変化が起きる。それまでの黒い瞳が青く変色した。さらに青から金色へ――――



 「10秒あれば、貴様は100は殺して見せようとも!」



 半壊していく首なしゴーレムの肩から飛び降り、ベルトに目掛けて落下。


 そして、ついに――――



 魔眼発動。



 アルデバランが使った魔眼のオリジナル。


 見た者の魅了して、困惑させ、体の自由を奪う効果。


 ベルトは瞳を閉じるが、アルデバランの魔眼とは違い、目を閉じた程度では効果を防ぎきる事はできない。



 「動けず、視覚も体の自由も奪われ、私を踏破できるか? ベルト? できぬ! できるはずもなからなかろう」


 彼は笑う。 もはや逆転も叶わぬ滅びを前で相打ちを狙う。


 すべては忠義。魔王さまのために――――


 ルークの魔力が片瞳に集中。


 信じ難い事に……その瞳から黒閃の魔力を放出させた。



 「さぁ死ぬがいい。常世の力を借りて……必殺の真・魔眼ビームだぁぁぁぁぁぁぁ!」


 

 一瞬でベルトの体は黒い光に飲み込まれ、姿を消した。


 確信。


 生れ落ち、数百年の貯蔵していた魔力の放出。


 これに耐えれる生物なんぞ地球上には存在しない。

 


 これでベルト・グリムは死んだ。



 そういうルークの確信だったのだが……すぐにそれは覆させられた。



 「10秒に満たないかもしれないが、俺たちにもあるんだよ。切り札って奴がな!」



 黒い濁流の中からベルトの声。


 その黒を掻き消すような純白の光。


 飛び込んできたの白い少女……彼女は聖女。



  ≪不可侵なる壁≫



  短時間という制約を代償に全ての魔力を無効化するという規格外の防御魔法


 『聖女』という神から祝福を受けた少女にのみ使用が許可された奇跡の御業。


 たとえ、魔眼であれ――――否。 魔眼のように闇が濃ければ濃いほどに通さない。



 「ここに、ここにきて聖女だと! おのれ、ベルト・グリムがががががぁぁぁっ!」



 再開されたルークの断末魔は、最後まで途切れる事はない。

 

 そして、ついに――――


 神聖な壁に防がれたルークは、まるで太陽の光を浴びた吸血鬼のように――――



 滅び落ちた。

 


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