第114話 ルークの正体!?


 ベルトが発したのは殺意。それと強い警戒心。


 脳裏に過ったのは前戦の記憶。 みすみすとカレンを連れ去られたという屈辱。


 皮肉にも、それらの感情がベルトの行動を僅かに遅らせ、フェリックスとルークに会話の時間を与えることになった。


 「ルーク、本体を使え」


 「本体を? しかし、あれは魔王さまの計画の礎……」


 「案ずるなルーク。これは魔王さまからの勅である」


 「勅!」とルークは目を見開いた。それから――――


 「現時刻をもってフェイズ凍結。本体を再起動させる」


 その直後に起きたのは地震―――否。 何かが地面を揺らしている。


 それは、その正体は、首無しゴーレム。 部屋の中心で結界によって封印されていたアレだ。


 いままで結界の内部でうずくまっていたソレが動き出す。


 「あれが本体だと! 部下に魔改造を施すにしても加減ってもんがあるだろうが、魔王の野郎!」


 「不敬な。 だが、それは卑小たる人類の限界。魔王様のスケールがわかるのも道理……ならばどうする? ……あるまい。 滅ぼすしかあるまい!」


 いつの間にか本体である首無しゴーレムの肩に飛び乗っていたルークのテンションは爆上がりだ。


 空から降り注ぐ日光は……だめだ。 日光から頭部を守るための日傘が宙に浮いている。


 それにゴーレムの方は日光を浴びても平気のようだ。


 おそらく首以外の吸血鬼である部分は心臓を除いて破棄されているのだろう。



 「この巨大な肉体に……弱点はない! さぁ……死ぬがよい! ベルト・グリム!」


 「いちいち悦に入ったようなしゃべり方しやがって……」と吐き捨てるように答えるベルトだったが、あっさりと背を向けて駆け出した。


 メイルとノリスも後に続いた。


 「なに! に、逃げるのか。 ここに来て卑怯者めが……えぇぃ入り口が小さすぎて通れぬではないか!」


 ルークの声を背に受けて3人は、さらに加速した。


 「このまま逃げるんですか? ベルトさん!」


 「……いや、探すものをしている」


 「探し物? あのルークを倒すための武器に心当たりでもあるのですか?」


 「そうだ」とベルトは断言した。それから―――


 「専門家の意見が聞きたのだが、あのゴーレムの方にルークの心臓が内蔵されていると考えて間違いないな? 他の可能性はないよな?」


 「吸血鬼が首なし騎士になって本体をゴーレムにした前例はありません。けれども……」


 「けれども?」


 「吸血鬼など魔に堕ちた者にとって概念は重要なもの……太陽が苦手、心臓に杭を打たれれば死ぬ。聖水、十字架、挙句の果てにニンニク。一見すると弱点であるそれらは、より堅硬な吸血鬼であろうとする概念強化」


 「うむ……よくわからんが、あいつらは健気に弱点を作っているからこそ、吸血鬼としての強みが十全に発揮できてるって事か」


「流石に察しが良い。 余程の理由がない限り、弱点は心臓で間違いなでしょう」


「余程のことか……」と一抹の不安を感じながらもベルトは走り続けた。


 「念のための確認だが、お前の槍で本体を貫ける可能性は?」


 「……自分に投擲系のスキルでもあれば良かったのですがね」


 「そうか。やはり、アレを捜し出すしかないな」


 「義兄さんは一体、何を捜してるんですか?」とメイルも乱れた呼吸で質問する。


 「あぁ、そう言えば説明してなかったか。 そりゃ……吸血鬼を退治する武器といえばあれだろ?」

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