第113話 吸血鬼であり、首なし騎士


 「アイツは、事もあろうに自分で自分の首を刎ねて、弱点である肉体の方を、どこか別の場所に秘匿しているのです!」


 ノリスの言葉にベルトは動揺しながらも体だけになったルークの攻撃を避ける。


頭部を失っても、その動きに変わりはない。――――いや、それどころか頭部の重さがなくなった分、軽やかですらある。


「厄介な真似を!」と思わず悪態をつくベルト。


それが至福だとでも感じただのだろうか?


「どうですか? 魔王様から頂いた力によって私は吸血鬼


であると同時に首なし騎士


として、真の不死身を、無敵の肉体を手に入れたのです!」


 切り取られた首は地面に転がったまま、愉悦に浸っていた。

 若干、テンションが高くなっているのだろう。 漆黒の鎧と剣を手にした無口な美形キャラの面影はどこにもない。 


 そんなルークの状態にベルトもイラっとしたのかもしれない。


 「メイル、やってくれ」と短く言う。


「はい! 《真実の弾丸》を放ちます」


いくら、心臓に杭を打たれも、首を刎ねられても死なない生物とは言え、聖属性魔法を受けて頭部そのものを消滅されれば致命傷なのだろう。


 「ひぇっ!」と首だけでジャンプしてメイルの攻撃を避けた。


 そのまま肉体が首をキャッチすると小脇に抱える。 よく首なし騎士


が取っているポーズのあれだ。


「おのれ! 猪口才な真似をして! 貴様らはここで終わりだ!」


ルークの言葉に反応して、地面が盛り上がる。


「伏兵を隠していたのか……」とベルトが言うとおり、新たな死鬼たちが姿を現した。


「その通り、この危機から逃れる手立ても…… もはやないだろう!」


「ベルトさん」 「義兄さん」とメイルとルークはベルトの判断を求める。

しかし、絶対絶命の危機、ベルトと言えどもこの危機から脱する手立てがあるのだろうか?


「うむ……」と本人は深刻そうな顔を見せ、それから―――― 



  《魂喰い》


魔力の刃を敵ではなく、天井に向けて放った。


このダンジョンは元々、巨大生物の死骸がダンジョン化したものだけあって、階層がない。

通常のダンジョンが奥深くへ潜るのとは違い、ただ奥へ奥へと突く進む構造になっている。


だから――――


「だから、通常のダンジョンよりも簡単に天井を突き破り、日光に浴びせられる」


一瞬の出来事だった。


天井から零れ落ちた太陽の光は死鬼たちの大軍を、あっさり全滅させて、大将であるルークですら地獄の苦しみへ叩き落したのだった。


「おのれ、おのれ、おのれ!」と怨念の言葉を吐くルークに――――


《真実の弾丸》


メイルの攻撃魔法が直撃する。


頭部までも原型を留めぬほどのダメージを受けてルークは消滅を待つばかりだった。


だが、ここで乱入者が現れた。


ルークを庇うように地面から浮き出てきた影。 その正体は――――



 またしても……前回のラインハルト戦と同様に魔王軍の参謀であるフェリックスだった。

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