第108話 ノリスの過去


 不死騎手は低速走行で先行していき、時々振り返ってはケタケタを笑っている。


 おそらく、何かを知らせているのだろうが、それを理解できるのはベルトだけであるため、メイルとノリスは信じてついていく事だけしかできない。


 メイルとノリスは、アンデッドを滅ぼす存在として捉えていた。


 ……と言うよりも「アンデッド、滅ぼすべし」とメイルが所属している教会では、徹底して教えられていた。


 神の定めに逆らう者……不死者。 


 実を言えば、メイルはアンデッドを仲間に入れるというのは抵抗がある。

 

 しかし、それ以上に義兄であるベルトを信頼している。


 それは、教会の教義よりも強い信仰心を抱いているという事であるのだが……


 まだ、本人は、そのことに気がついていない。


 一方のノリスはと言うと……


「あんた、《聖女》なのにアンデッドを信じて良いのか?」


 やや不満げな顔と口調なのは、現状に納得はしていないからだろう。


 メイルは、少しだけ返答に困ったが――――


「確かに、アンデッドが仲間になるなんて、想像もしていませんでした」


「だったら……」


「でも、義兄さんが予想外の行いをするのはいつもの事なので……もう慣れてきちゃいました」


 その言葉にノリスは目を見開いた。


「そうか、ベルトさんの事を信頼してるんだな」


「はい、なんせSSSランクの冒険者さまですから」と少しおどけたように言った。


 しかし、ノリスは――――


 「俺はそこまで割り切って考えれないな」


 無表情の彼には珍しく、その表情には憂いのようなものが秘められていた。


 「……何かあったのですか?」

 

 帰ってきたの「……」と無言だけだった。


 メイルは、改めてノリスという人物を考えてみた。


 (アンデッドの専門家……特定のモンスター退治の専門家は決して珍しいものではありません。でも、それでSSランク冒険者まで登り詰めた人間は稀のはずです。そもそも、今までパーティは組んでいたのでしょうか?)


 「……珍しくも無い話だ」


 考え事に熱中していたためか、ノリスの呟きを危うく聞き逃すところだった。

   

 「国々と魔王軍の戦争があった。たまたま、滅ぼされた俺の村を襲ったのはアンデッドの軍隊だった。……それだけの話さ」


 感情の起伏もなく話すノリス。

 だからこそわかってしまう。 心を殺さなければ、話せないほどに……絶望を目にしたのだろうと。


 「……なんでアンタが泣いてるのさ?」


 「え?」とメイルは言われてから気づく。自分の瞳から涙が零れ落ちている事を。


 「どうしてでしょうか?」とメイルは慌てて涙を拭く。


 本人が感情を面に出さず、事実だけを端然と語ってくれた事に対して、泣いてしまった自分が恥かしく感じた。誤魔化すように何かと言おうとしたが「あの……その……」と言葉が出てこず、うまく行かない。


「気にするな。自分のために泣いてくれるっても……案外、悪い気はしない」


言い終えるとノリスは少しだけ足を速めた。

 

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