第107話 不死との意思疎通
それは嫉妬……
それは比類することすら難しい……膨大な生者への嫉妬の炎。
嫉妬の炎が渦巻く心。 その隙間に揺らぐ感情がある。
狂おしいほどの自由への憧れ。
……それから天使と呼ぶ
だからベルトは、その美しい部分だけを抽出。
自由と愛を拳に乗せて――――
≪
――――ベルトは打ち込んだ。
目的は単純だ。
不死騎手が持つ人間らしさ。
つまり、人間を嫉み殺そうとするアンデッドの本能を、僅かに残されていた人の感情で上書きして、人間らしさを再認識させる事。
加えて、ベルトの意思を送り込む事によって意思疎通。
だが、それは死者に生者の感情を蘇らせようとする行為。
この世界に魔法の生き字引いきじびき……有識者たちが判定すれば、死者蘇生と等しい禁術となるだろう。
無論、ベルトも思いつきで行った行為ではない。
ずっと考えていたのだ……
第五迷宮での戦い。
かつて魔王軍四天王の1人と言われていた男、ラインハルトと戦った。
だが、彼は彼ではなかった。 いや、精神はかつての彼――――ベルトが殺した前の彼と精神は、魂は同質の物なのかもしれない。
しかし、体は違う。
ラインハルトの肉体は、かつてベルトの妻だった女性のものだった。
カレン・アイシュ。
死した彼女に魔王は禁術を施し、肉体を蘇生。
その肉体に自分の部下だった男の精神と魂を憑依させたのだ。
だから、ベルトは試したのだ。 強制的にアンデッドに人間の心を取り戻させる技を――――
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「う、動かねぇな」とノリスは呟いた。
ベルトがアンデッドに対して、二発の≪致命的な一撃≫を打ち込んで30秒経過している。
その間、ベルトと不死騎手の両者、微動だにしていない。
ノリスはベルトが何をしているのか理解できていない。ただ、尋常ではない緊張感で両者に近づけずにいる。今も、一滴の汗が頬を伝わって地面に落ちる。
その一方でメイルはと言うと――――
「あの……どうして攻撃しないんですか?」
「何を暢気なことを――――」と返そうとしたノリスは彼女の方を振り向いて絶句する。
暢気どころではなく剣呑だった。
なぜなら彼女は、すでに杖に魔力を込めて攻撃態勢に入っていたからだ。
「ちょ! おま、待て! 空気をよ……」と静止するノリスよりも早くメイルは攻撃を開始した。
≪
メイルが持つ数少ない攻撃魔法の1つ。
小さな聖属性の魔法を発射する攻撃。威力はかなり低いのだが特定の敵に対して様々な効果を現す。ついでにアンデッドには効果がバツグンだ。
一直線に向う魔法の弾丸。以前、不死騎手は動く様子もなく――――
だが、ベルトが動いた。
不死騎手に到達するよりも速く、ベルトは片手で≪真実の弾丸トゥールショット≫ を掴み、握りつぶした。
「落ち着けメイル。交渉は終わった」
「交渉……もしかして!」
「あぁ、不死騎手は仲間になってくれるそうだ」
ベルトの横でケタケタと不死騎手は笑う。しかし、ベルトには何を言っているのかわかるらしい。
まるで皮肉の効いて、ウィットに富んだ洒落たジョークを聞いたようにベルト笑ったが、メイルとノリスには何が起きているのは分からない。
しかし、メイルはここぞとばかり――――
「さすが義兄さん! メイルは信じていました」
……と先ほど、攻撃を仕掛けたのを忘れたようなメイルの言葉に隣のノリスは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
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