第二部 前半

第31話 魔王の最動


 かつて西のダンジョンといわれていた場所――――その最深部は変貌を遂げていた。


 ダンジョンコアと言われるダンジョンを制御するクリスタル。


 それに復活した魔王シナトラは魔力を注いだ。注ぎ続けた結果、ダンジョン内部とは思えない変化が現れた。


 ダンジョンの内部に城が生まれたのだ。




 魔王城。




 かつて、世界の半分まで支配して、勇者カムイに敗れるまで魔王シナトラが鎮座した場所と同じ城。


 そして、その城の中心――――




 玉座には魔王が座っていた。




 巨大な魔力を誇りながら、どこか弱々しい老人だった姿は過去の事。


 今は、仇敵であった勇者の肉体を奪い、若々しさ――――そして、かつては持ってなかったギラギラと精力的な眼差しを持っていた。


 そこに――――




 「魔獣将軍 ラインハルト。ただいま参上仕りました」




 玉座の間に入ってきたのは獅子の頭を持つ半獣半人の戦士だった。


 魔王四天王の1人。個人が有する武力では魔王軍最強と言われた存在だった。


 シナトラはラインハルトの入室を一瞥すると――――




 「うむ、よく来た。堅苦しい挨拶はなしじゃ。単刀直入に言う」




 「はい」とラインハルトは片膝をつき、頭を垂れる。


 その姿は忠義の武将だ。




 「おぬしには第五迷宮に行ってもらう」


 「第五迷宮……ダンジョンコアの修復でしょうか?」




 「いや、違う。もうあのダンジョンは死んでいる」とシナトラはため息をつき、こう続ける。




 「うちにソルを使い、あの暗殺者を第五迷宮に呼び寄せる予定だ」


 「……あの憎き人間が…第五迷宮に」


 「殺れるか? ラインハルト?」


 「はいっ! あの男の首印を我が魔王さまの元に……必ず!」




 顔を上げたラインハルトは決意の表情。


 忠義に答えるため玉座の間を後にした。


 その後、暗闇から声がした。




 「やれやれ、威勢は凄いですね。しかし、あの御仁にベルトさんが討てますかね?」




 奇妙な闖入者にも魔王は動じなった。


 どうやら、最初から潜んでいる事を知っていたようだ。




 「討てなくても構わぬよ」と魔王。




 「え?そうなんですか?」


 「あぁ、この戦いは奴がどこまで戦えるのか……あくまで試金石よ」


 「へぇ~ 僕にはわからない話ですが、魔王さまってお立場になると、いろいろ考えているんですね。」




 その言葉に魔王は笑った。




 「その言葉、お前に返そうぞ。人類の裏切り者めが」




 闖入者の名前はソル・ザ・ブラッド。


 元冒険者であり、現冒険者ギルドの職員。


 だが、それは表向きの姿でしかない。


 冒険者ギルドの中核に噛み付き、水面下で支配する事に成功した男。


 そして――――


 よりにもよって――――




 冒険者ギルドを裏で操る権力を持ちながら魔王に与した人類の裏切り者だった。






 「そして、首尾の方は? どうなっている?」


 「はい、全ては順調に……全てを僕にお任せを」




 そう言いながら、ソルは数日前、『薬局カレン』でベルト・グリムを交わした会話を思い出していた。




 「というわけで、第五迷宮に魔王軍が潜んでいる痕跡がありまして……冒険者ギルドといたしましては、是非にベルトさんに調査を―――」




 「……いや、そりゃ無理だ」と冒険者ギルドの指令を普通に断られた。


 玉座の間、魔王と対峙しながらも、飄々としたソル。


 その心中では冷や汗をかいていたという事を知る者は誰もいない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る