第30話 第一部 完


 ベルトは目を覚ました。


 根無し草の生活が長かったせいだろうか? 


 今もまだ自室の天井に慣れず、違和感を消し去れていない。




 さて――――


 昨日は、泥のように眠りたいとベットに飛び込んだはずだ。


 しかし、普段どおりの時間帯に目覚めたようだ。


 窓から外を見る。夜の黒に、まだ昇らぬ太陽が赤色を混ぜたような空が広がっていた。




 ベットから降りるとベルトは軽く体を動かした。


 意外なほど疲労は残っていない。


 少しくらいのブランクは覚悟していたが、どうやら現役時代から回復能力の衰えは少ない……らしい。


 体を動かす事で頭の鮮明さも戻ってきた。




 あの後――――


 おそらく、人類が使用できる最強クラスの魔法(それも2つ)を切り裂いた。


 それは、斬撃魔法とも言われる≪魂喰い(ソウルイーター)≫に加え、武器装備のみ使用できる特殊スキル≪魔法切断≫があっての事だが……


 魔法を防がれた直後にマシロ姫とシン・シンラの両名は停止した。


 どうやら、体内に浸透された『呪詛』に対して、大量魔力消費が何らかの影響を与えたのだろう。


 しかし、アルデバランを加えた3人を地上へ帰還させる方法が見つからなかった。


 いくら、ベルトでもモンスターが闊歩するダンジョンで3人を抱えて移動するのは危険すぎるのだ。


 結局、100人の救出部隊が到着するまで待機する事になった。


 救助された3人は、メイルが所属する≪教会≫で≪浄化≫を受ける事になったそうだ。




 だが、それだけで話は終わらない。


 なんせ、魔王の復活。それも勇者の肉体を奪っての復活だ。


 魔王に対抗できる他の勇者パーティは長期の治療で戦線復帰の予定は未定。


 各国首脳たちは緊急集会を行った。長々と今も議論は続いているそうだ。




 しかし、いくら議論を重ねようと現存戦力で魔王に対抗できる男は、ベルト・グリムしか残っていないのだ。


 だが、本人は服を着替え、大きなカゴを背負った。


 今日から『薬局カレン』の再会だ。 日が昇りきるまでには山で薬草を採取して、薬作りをしなければならない。


 ベルトの目的は薬局と冒険者の両立を目指すだけ……


 もしも、人々が望むのであれば、新たな希望が立ち上がるだろう。


 自分がやるべきことは、そういった次世代の手助けをすることだけだ。


 そうベルトは思っていた。




 しかし――――現実は――――






 第一部 完  

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