第27話 VS勇者パーティ ③


 暗殺者であるベルトは決まった武器を使用しない。


 使うのは大量生産品。 直ぐに代用が可能なほどありふれた武器が好ましい。


 しかし、この武器だけは別だった。




 『サウザウンド・オブ・ダガー』




 作ったのは熟練の職人……ではない。むしろ、真逆だ。


 作ったのは職人とは、呼べない人たち。


 工房に一列に並べられ、無造作にハンマーを振り下ろす。


 毎日決められた時間帯、毎日決められた手順、毎日決められた動作。


 大量生産のために規則性システマチックに作られた二束三文の短剣ダガー




 ――――しかし、1000本に1本の確率で数字の奇跡が起きる。




 神話の時代から朽ちずに残った聖剣、魔剣、宝剣……


 それらに匹敵する切れ味、耐久性、魔力浸透度を有するのが、この短剣だ。




 再び、それを装備したベルトの感想は――――




 「馴染む」と短いものだった。




 まるで手の延長のように感覚が繋がっていく。


 魔力の浸透度が自身の手よりも高い。


 それは、素手ではできない魔力を溜める事が可能という意味だ。


 溜め時間は5秒のみ…… 


 メイルの防御魔法で威力は減少しているとはいえ――――


 対するは人類最強の後衛職2人が放った最大魔法。




 「もう持ちません!」




 メイルが叫び、魔法を弾いていた壁に亀裂が走る。


 壁が完全に砕け散り、全身に魔法を浴びるよりも速く――――




 ベルトはダガーを振るった。




 ≪魂喰いソウルイーター




 暗殺者唯一にして最強の魔法。具現化された魔法の刃が全てを切り裂く。


 ……そのはずではなかったのか?




 魔法の刃は2つの魔法とぶつかり、動きを止めた。


 拮抗状態。……いや、僅かながらベルトの≪魂食いソウルイーター≫が押し返している。


 しかし、それは見る者が見れば風前の灯火。


 瞬間最大火力はベルトが上。しかし、それ以外は圧倒的にマシロとシン・シンラが上。


 すぐにベルトの魔法は2人の魔法に飲み込まれ、術者であるベルトに襲い掛かってくるだろう。


 だが、その前に――――


 ベルトは歌うかのように詠唱を開始した。




 『これより放つは不可視の刃――――』




 再び、ベルトが握る短剣に魔力が流れる。




 『刃には毒と死を混ぜよう――――』




 毒々しい魔力が刃を深紫に染めていく。




 『贈るのは不吉と嘆き――――生者は死者へ――――残るは灰のみ、全ては地へ戻る――――』




 膨れ上がったベルトの魔力がサウザウンド・オブ・ダガーに流れ込んでいく。


 それは詠唱による魔法強化。さらに十分な魔力の溜め時間。 


 さらに、ベルトのソレには全てを切り裂くという概念強化が備わっている。


 ソレとは、すわなち――――




 ≪魂喰いソウルイーター




 短剣を振るうと同時に放たれたのは具現化された魔法の刃。


 しかし――――


 どうあがいても、暗殺者であるベルトの魔法が、本職であるマシロとシン・シンラの魔法には勝てない。


 だが―――― その刃は全てを切り裂く。




 それは無論、人類最強の魔法使いが放った2つの魔法すらも――――




 切り裂いた。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る