第14話 レッドトロール退治と緊急指令


 「お兄さん! 大丈夫ですか?」




 後方からメイルが飛び出してきた。


 少し時間がかかったのは、助けを求めていた冒険者から事情を聞いていたからだろう。




 「ダメだな。少し本気を出すぞ」




 腕に激しい痛みが走った。


 浄化によって弱体化しているはずの『呪詛』が足掻く。


 ベルトは、それを抑えるように『呪詛』の部分を握り締める。




 ≪身体能力上昇≫ 


 ≪ステータス上昇≫


 ≪軽気功≫


 ≪速攻迅速≫ 


 ≪雷神化身≫ 


 ≪狂気限定解放≫


 ……etc.etc




 自己強化系スキルに自己強化を重ねていく。


 その姿にレッドトロールの表情に怯えが見えた。




 「メイル! この状態で『呪詛』に影響がでない時間は?」


 「たぶん……3分。可能なら1分以内でお願いします」


 「そいつは十分すぎる。いくぞ! レッドトロール!」




 しかし、ベルトよりも先にレッドトロールが攻撃を繰り出した。


 蹴り。だが、狙いはベルトではない。狙いは――――地面だ。




 「砂や石を蹴り上げる目潰し……にしては豪快すぎるな」とベルトは笑う。




 大量の砂と石がベルトに直撃。砂煙がベルトの姿を消す。


 レッドトロールは、獲物ベルトがいるであろう場所に拳を振るう。


 確かな手ごたえ。獲物を仕留めたと確信する。


 勝利を確信したレッドトロールだったが、次の瞬間に異変が起きる。


 動けない。


 その時、トロールがイメージしたのは、自身より遥かに巨大な生物に腕を掴まれたような感覚。


 だが、それに事実は相反してた。


 砂煙が消える。 拳を掴んでいたのはベルトだった。




 「きぇええええええええええええええぃぃぃぃぃぃ!?」




 恐怖の叫び。 恐れを払うようにベルトへ手刀を振り下ろす。


 それがベルトに届くことはなかった。


 クルリと回転する視点。 投げられたと理解するのは地面に叩きつけられてから。


 慌てて起き上がるも、ベルトの姿はなかった。




 「60%も60秒も必要なかったか」




 レッドトロールは背後に潜む者の声を聞く。


 人の言葉は理解できないが、それが死神の声だと言う事は分かった。




 ≪致命的な一撃クリティカルストライク




 事実、レッドトロールが最後に聞いたのは、ベルトが攻撃スキルを発動した声であった。




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 「すごい! すごいです! お兄さん!」




 メイルが駆け寄ってくる。




 「メイル、『呪詛』の影響は?」


 「あっ……はい! 大丈夫です。念のために浄化しておきますね」


 「そうだな。……頼む」




 ベルトは警戒心を強めていた。


 もちろん、≪気配感知≫のスキルを使っているのだが……


 だが、見られている感じが――――視線を感じる。




 もしも、≪気配感知≫を無効化して潜む事が出来る相手なら――――危険だ。




 相当な実力者でありながら気配を消して、こちらを覗く奴に碌ろくな奴はいない。




 「もう知ってるかもしれないが、初心者冒険者がレッドトロールから逃げて森の奥にいる。ソイツを見つけたら、すぐに脱出するぞ」




 メイルにも感じるものがあったのか? 「はい」と神妙な面持ちで返事をした。




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 その後、ベルトの予感に反して、あっさりと初心者冒険者を救助。待っていた父親ともスンナリと合流して町まで戻ってきた。


 その足でギルドへ報告に向う。




 「やはり、レッドトロール脱走の事故は起きていないか?」


 「えぇギルドが把握している限り、魔物使いからモンスターの脱走や暴走の報告は受けていません」




 担当の受付嬢からは満足な情報は得られなかった。




 「そうか……念のため、あの森の調査はした方がいいぞ」


 「はい、ギルド長へ進言します。それと……」




 受付嬢はキョロキョロと誰も聞いていない警戒しながら、口をベルトの耳へ近づけた。




 「ギルド長からベルトさまへ特別指令ミッションが出ています。内容は――――




 勇者パーティの救出です」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る