第2話 勇者パーティからの追放
―――1年後―――
「すまないが、パーティを抜けてくれないか?」
深夜に軍師役であるシン・シンラに呼び出された時に覚悟はしていた。
「気がついていたのか?」
ベルトは、今まで隠していた右手の震えを今度は隠さなかった。
魔王との戦い。傷は癒えても万全とならず後遺症が残った。
それに長年使用を続けていた毒素が気づかない内に体に蓄積されたのだろう。
「みんな気づいていたさ。お前がもう、戦える体ではない……と」
「知ってて黙っていたのか。気を使わせたな」
ベルトはシンに背を向けて天幕から外へ出た。
「お前たち……」
外ではパーティの全員が待っていた。
『癒しの姫』 マシロ・アイフェ
『超前衛戦士』 アルデバラン
背後には黙って『東方の方術士』シン・シンラが立っている。
そして――――
『剣の勇者』 カムイ
「みんな、迷惑かけて悪かったな。一足先に俺は引退させてもらう」
笑顔を見せれた。……そのはずだ。
「おい、アルデバラン。泣くなよ。いつもみたいにガハハハと笑ってくれ」
「そいつは無理な話だぞ……」
いつもは、真っ先に敵前に飛び出す巨体が、小さく見える。
まるで出会ったばかりの弱気な少年に戻ったみたいだ。
そんな彼にベルトは――――
「コイツを受け取ってくれ。もう、俺には必要ないみたいだからな」
愛用の短剣を渡した。
「こんなの受け取れないよ」
「あっ……悪いが、いつもの賭け。あれイカサマだったわ」
「なっ!?」と驚くアルデバラン。
「これで勘弁してくれ」
「仕方ないんだなぁ」と涙を流しながらもアルデバランは受け取った。
ベルトは、次にマシロを見た。
「姫様も見送ってくれるのかい? 俺の事、嫌いだっただろ?」
「当たり前です。貴方がカムイさんの事、殺そうとしていた事、私は忘れませんよ」
「あぁ、そうだったな。俺はスッカリ忘れていたさ」
「私は、貴方のそういう所が嫌いでした。でも……」
「でも?」
「今まで、カムイさんを、私たちを守ってくれてありがとうございました」
真っ直ぐに向けられた少女の視線。
それに秘められた感謝の意はベルトを驚かせた。
(あの我侭な姫様が……ずいぶんと成長したなぁ)
「それを最初に言われてたら、短剣をアルデバランじゃなくアンタに渡していたぜ」
「もう、こんな時にまで……やっぱり、貴方の事は好きになれません」
「別れの品は渡せない代わりに、アンタとカムイの幸せを祈らせて貰うよ」
「もう」とテレたように笑うマシロだった。
ベルトは振り向き、背後のシンを見た。
「私からは何も言葉はありませんよ」とシンは言う。
「お前になくても俺にはあるっての……あのさぁ、俺とお前は喧嘩ばかりだったけど、お前の知識は買っていたんだぜ。これから、このパーティの頭脳として頼んだぜ」
「……意外でした。新参者の私に、そう思っていたなんて」
「新参者だからこそ、新しい風を入れてほしいのさ」
そういうとベルトはシンに近づき、耳元で囁いた。
「約束どおり、お前が女って事は誰にも話してない。安心しろ」
「――――ッ!?」
鉄仮面のようなシンの表情が崩れた。
「あ、貴方って人は!」
「アハハハ……」とベルトは笑うと、最後にカムイに話しかけた。
「――――」
「――――」
短い別れの言葉だった。
けれども、1つの言葉に10の意味が込められていた……そう互いに分かり合っていた。
「あばよ! 今度会う時までに俺は一山当てて、億万長者になってるから、飯くらい奢ってやるかなら!」
それだけ言って、ベルトは振り向かずに駆け出していた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「おいおい……なんの冗談だ?」
走っていたベルトは足を止める。
≪気配感知≫
暗殺者の基本スキルだが、人の反応があった。
おそらくは、商人の馬車。護衛に冒険者が2人。
問題は冒険者のランクだ。 おそらくはBランク。
冒険者としては上位に入る。 だが、ここら辺は魔素が濃い場所だ。
突然変異的なモンスターが出現する場所。 護衛としてはAランク以上……いや、Sランクは必要だろう。
ベルトは
こちらの合図に気づいたらしい。
誰かが近づいてくる。おそらく、冒険者の片割れだろう。
「おい、どうしてこんな所で止まっている? 夜を明かすには危険だぞ」
「実は……」
どうやら、彼等の依頼主はどケチだったらしい。
お金をケチるために冒険者ギルドを欺いて、護衛の難易度を誤魔化してBランクの冒険者を募集。
ここら辺の危険地帯はモンスターに襲われる前に高速で通り抜けようと計画していたらしいが……
馬車の車輪が脱輪。 動けなくなったらしい。
「ここの場所を1人と言う事は、もしかしてSランク冒険者ですか?」
「ん? ……あぁ、大体そのくらいだ」
「この仕事の報酬をお譲りします。私たちを守ってくれませんか?」
「待て待て、そいつは依頼主の意向か? 途中で依頼の譲渡はまずいだろ」
「いいんですよ。騙そうとした依頼主は、もう依頼主じゃありません。依頼の下調べもしないギルドもギルドです」
「……」
ぼりぼりと頭を掻きながら、ベルトは少し考えた。
(噂には聞いていたが……冒険者ギルドの信頼が落ちているなぁ。さて、どうするか?)
「お前たちの護衛は受ける。だが、条件がある」
「条件……ですか?」
「あぁ、報酬はいらない。やはり、ギルドが定める冒険者規約を破るのはダメだ」
「え? 無償で?」
「構わないさ。たまたま、通りかかって助太刀に入った事にすればいい」
冒険者は少し警戒をするような目つきに変わった。
話がうますぎると思ったのだろう。
無防備な奴よりも好ましいとベルトは思った。
「そんなことより、既に何匹かのモンスターが近寄ってきてるぞ」
「え? あっ! あれは!」と冒険者は絶句した。
近づいているのはハイ・オークの群れ。
……いや、さらにオーク種の上位系であるメガ・オーク。
巨大なギガ・オークまでいる。
「お前さんは馬車まで戻って護衛に専念しな」
「はい! でも、貴方は?」
「俺は、ここでこいつ等を食い止めるさ」
「――――ッ!? そんな無茶な!」
ははぁん、コイツはいい奴だな。 こんな時でも他者を心配してくれている。
絶対に守らないとな。
「運が悪かったなモンスター共が。今の俺は、少しばかり機嫌が悪い。加減はなしで行かせて貰うぜ」
冒険者が止める声を無視してベルトは駆け出していた。
その表情には獰猛な笑みを浮かべて――――
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