5月

2019年5月5日 「変わった娘」


行方不明だった娘が警察に保護され、私は急いで東京へ向かった。五年ぶりに会った娘は人が変わったようだった。やせ細り、頬骨が飛び出し顔が違うように思える。声も。右手の黒子ほくろもない。血液型も違う。誰だこいつ!




2019年5月12日 「落ちる」


今日こそはと意を決し屋上へ辿り着くと、フェンスの向こう側に先客がいた。吹き上げる風に髪とスカートをなびかせ、彼女は泣いていた。夕日に照らされた彼女のはかない美しさに僕は一目で恋に落ちた。そして彼女も落ちた。




2019年5月19日 「バイオ母ード」


母が死んだのは再就職先の微生物研究所に勤め始めて直ぐのことだった。ちょっと前まで第二の人生だと笑っていたのに。今ではあーとかうーとかうめき、よだれを垂らし、人を見つけては噛み付き、第三の人生を謳歌おうかしている。




2019年5月26日 「勘違い彼女」


「一口どうぞ」僕のアイスを差し出すと彼女は驚いたあと、意を決したように頷いた。カバかヘビかという程に大きく開いた口にアイスがその姿を消す。したり顔の彼女。ちょっと待て。一口「で」どうぞとは言ってない。

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