第16話 終戦が過ぎて
昭和20年8月18日、玉音放送で日本全体が落ち込んでいる中、木更津飛行場には、異形とも言える飛行機が翼を並べていた。そして、海軍関係者だけでなく、少年少女達が興奮気味に並んで、見つめていた。彼らは、勤労動員で海軍関係の工場や研究機関で働かされていた中学生、女学生であった。
これから、これらの飛行機の最終試験が実施される。本来なら最高機密であるものを、少年少女達にも見せると言うのだ。最終試験とは、米国軍、進駐軍に、全ての兵器とその情報は引き渡すことになっているが、米軍側に引き渡す前に、性能等のデータを整理して、引き渡すためだと説明された。全員が半信半疑ではあるが、そんなことはどうでもよかった。
新聞の不鮮明な、修正されていた写真などでしかみたことがなかったものが、今目の前で動いていることに興奮していた。
数機の一式陸上攻撃機の胴体に1機づつ吊されて、空中で切り離され、ある機体は火薬ロケットを、ある機体は液体燃料ロケットを噴出させ、急上昇してゆく、1機はエンジンジェットでゆっくり飛行し、もう1機は火薬ロケットで急加速してから、ラムジェットが動きだして飛行、ある程度の機動を行ってから、最後に、そして唯一、脚をだして着陸した。これと同一の機体が、巨大なカタパルトで急加速して飛び出し、更に火薬ロケットに点火、かなりの速度になってからラムジェットをという同様な手順で飛び立っていった。その後、無尾翼機が液体燃料ロケットを噴出させ、滑走路を走って飛び立っていった。主翼が後ろにある機体が3機、それぞれ異なるジェットを積んでいた、が次々飛び立っていった。長い胴体で、タービンジェットを二つ胴体に装備した機体も飛び立っていった。
少年少女の何人かは、ドイツ人や町工場の職人と思われる一団が、涙目でそれを見ているのに気がついたがなにも言わなかった。言う暇がなかった。彼らの前に立った士官から、今までのが試験、研究目的、訓練用に作られ、使用されたものだと説明を受けた。そして、いよいよ真打ちが登場という話を聞いた。
この後、ロケット戦闘機秋水、ネー20改装備の戦闘機型橘花、前尾翼局地戦闘機震電の全力飛行試験が実施された。秋水が、900㎞、震電が800㎞以上、橘花が800㎞近くの最高速度を達成させた。初めの機体は、本格的ロケット、ジェット機開発のために、飛行特性を理解する等を並行的に研究するために開発するという建前から作られたものである。という建前でである。本来の機体の開発に死者支障を及ぼさないため、第二航空工廠が、在日ドイツ人、軍事技術者、民間中零細企業と町工場の名人や発明家の協力を求めて開発したものである。思った以上に性能がよかったものの、戦闘に投入できるものではなかったため、試験以外は訓練などに使用された。この事業を取り仕切っていた岡野少佐は、はじめは対立感、プライドがぶつかり合うことが多かったが、数ヶ月前の初飛行では、そのわだかまりがなくなって大喜びで、抱き合ったものだった。ちなみに火薬ロケットの桜花が、人間爆弾として投入されたのは、終戦の一ヶ月前のことだった。試験が必要と抑えることができなくなったためである。少し前に、回天の水中特攻が始まっていたせいもある。その時発表された、新兵器の記事の写真を、入手して、その、不鮮明な過ぎる写真から必死に、その中身を探ろうとして、右往左往したあげく、結局ドイツ軍の兵器情報が日本に流れているということで米軍は解釈を詰め込んで、勝手に納得してしまった。今、彼らは、また、涙を流している。その涙は、悔し涙かもしれないし、もう直ぐ米軍により破壊されるだろうことへの涙かもしれないし、両方かもしれなかった。
地対空ミサイルである奮竜4型の3度目の発射実験も、地対地ミサイルである奮竜1型の実射とともに公開された。当初、伊豆半島から大島まで飛ばす計画だったが、誘導技術的に困難と言うことで上陸舟艇や艦砲射撃する艦艇に対する目視可能な距離のタイプに転換したものである。これについては、火薬ロケットで数㎞飛べる有人グラインダーの特攻機の方が有効であるとの主張と激しい論争となったし、何故か、奮竜が特攻兵器とする著者も後日でているが。
海軍の戦車も同様だった。
これらの開発者である彼らにとっては、
「日本軍のジェット機、ロケット機、ミサイルは実用化前であったり、性能的に今後使用する動機も生じないものではあったが、我々が予想できなかった程度まで進んでいた。」
という評価は嬉しいものであったのかどうか。
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