第15話休話閑題3
「日本占領下のアジア諸国の対応が穏やか過ぎないかい?日本もサービスがよすぎるような気もするけど。」
サタンは少し疑うように言った。月読は、また、首を傾けた。
「海上輸送が、比較して良好だからだ、という面が大きいと思うよ。食足りて礼節を知るだよ。」
「それだけでかい?」
「貧すれば鈍すだよ。その逆も真じゃないか?」
「う~ん。そうかもな~。」
確かに、海上輸送の損害が少なければ少ない分、日本側が東南アジア諸国に求める負担は少なくなるし、彼らに配慮する余裕も大きくなるのはおかしくはない。
「それに、ここで好意を持たれる日本人を僕がかなり左遷させた結果がこれなんだよ。」
月読みが悩むように言うと、
「う~ん。」
サタンは、う~さんになってしまう。彼が本来のとして知っている歴史はどうしてそうなったのだろうか。
「そんなに変わっていないと思うんだが、どうだろうか?本来の歴史での雷電33型が半年前に配備されていただけで、後の歴史とは変わらないけれど、個々の事例は異なって来るだろう?」
「どこがだい?」
「B29の爆撃での被害が減る、B29の損害が増えるということで、兵器生産数が増える、開発が進む、訓練も進む。爆撃による影響は開発や訓練にもあっただろう?」
「う~ん。それはあったろうな。」
「片や米軍も、B29の損害増の影響が多方面に、その量に比例して微量でも出てくるだろう?」
「それもあるだろうな。」
「すると、数、質、練度の差が少し縮まる。それが何度も続くと…。」
「はっきりした違いになる、違いが出てくる。そうなれば、選択する戦略、戦術も変わる。」
「そうだよ。僕の世界は、色々小さな違いが集まって、積み重なっているから、違っているようにみえる。そう考えられないかい?まあ、できるだけ小さくなるように、僕が介入したのだけど。」
この世界で起こっていることが、ありえない技術などが出現して、突然天才や名将が現れてと言うことではない。当たり前の連中が、当たり前のことをやっているだけのことだ。本来の歴史にもつながっていることばかりだ。逆に、どうして彼らが、こうしたことが、本来の歴史ではなかったのか、彼らが認められなかったのかの方が分からなくなる。野村達とて有能な連中ではある。しかし、日本のためにはならない、周囲に
自分達を正当化する、上手くやることにたけている、それが悪いわけではないが、どうして彼らが…と思うと、やはり本来の歴史の方がおかしいと思えてくる。
「地対空ミサイルである奮竜も、爆撃被害が小さければ、四型が
八月に試験できたろうと思わない?橘花だって、震電だって、初飛行も早くなって、もっと試験ができたとは?」
「その通りだとしよう。でも、結果は?何も変わらないだろう?」
月読は、にっこりとしながらも、少し皮肉っぽい表情も浮かべた。
「その通りだよ、サッちゃんの言うとおりだよ。でもね、」
一旦、言葉を、切ってから、
「でも、そうならないのではないか、と疑った、心配して、僕が不当な干渉をしているのではないかと、調べにきたのではないかい?それなのに、大勢に影響がないことに安心してもらえないのかい?
」
いかにも困ったという顔をして、ポーズを取った。サタンは答えに窮した。その顔を見て、月読が穏やかな表情になった。
「でもね。確かに、大日本帝国は、ポツダム宣言を受諾し、南樺太も千島列島も取られ、マッカーサー達米国軍が進駐軍として日本を占領して、支配する。しかしね、橘花は実用化しない、実戦に参加しない、その技術は消し去れて、後の日本に貢献することはない、単に十数回試験飛行した、最高速度試験飛行もした、ネー20改、推力600㎏級を搭載した機体が初飛行した。それだけのことだよ。米国は、日本がここまで、ほぼ独力でジェット機を開発したことに感心して、驚いたが、ドイツは理論面でも、技術でも、成果でも、はるかに進んでいたから、ドイツの技術調査、導入、人的資材の確保に夢中になり、日本がなにか影響を、与えるということがないというのは全くないよ。でも、それでもだよ、その積み重ねは、やっぱり、積み重なるものとなるんだよ。」
首を横に振りながら語る月読に、サタンは複雑な思いで見つめた。
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