第14話アジア諸国は生き延びを考える

 スカルノは、あまりのことに驚いた。もちろん聡明な彼は、ドイツも降伏じ、ソ連が参戦した今、この戦争において日本の先行きは暗いとしか言えないと確信していた。それが、情報なりを打診しようとして、理解ある日本海軍将校に相談に来て、ここまでの話しを聞くとは思ってもいなかった。

 保坂中将は、インドネシア共和国の顧問のような形だったが、その地位以上に、スカルノ達から相談を受けることが多かった。その彼が、

「日本は、勝てないよ。過酷な講和を受け入れるほかないだろう。だが、皇室が安泰である限り、日本国民は一体となって頑張って、復活する。だが、君達は知恵を、時には悪知恵を出して、独立を守る必要がある。日本に形の上でも、宣戦布告するのも選択肢の一つだよ。」

「そんなことは出来ませんよ!」

「独立こそ、君達が守るべきことだろう。そのためには、非情出なければならない。だから、形の上え、と言ったのだ。」

「は?」

 スカルノは、疑問を持ちつつ、保坂のとうとうとした話しをじっと聞いた。

「米国が、君達が日本と戦ってくれた戦友ならと思ってくれる、あるいは、彼らの国際秩序の上で必要不可欠だと思うなら、容易に独立を維持で来るだろう。」

 スカルノは、彼の指摘が分からなかった。米国はこの戦争に勝った、米国はこの戦争の勝利の立役者である、当然米国は世界秩序の中心国になり、新しい秩序を打ち立てる、旧植民地支配国の権益をそのまま復活させることはない、それは米国の国家理念にも反するし、利益にも反する。だから、米国はインドネシアの独立を支持する、はずだと半ば信じていた。

「もし、私が米国大統領なら、インドネシアの独立を支持する、なぜなら、米国の長期的利益になるからだ。しかし、やつらがそうする確率は半々だな。戦争が終わって、元の米国だけの世界に帰れると考えるかもしれない。あとは知らないとな。」

「まさか…。しかし、そうすると、我々はどうすべきなのでしょうね?」

 彼は、実は米国が自分達の独立を認めると、半ば当然視していた。動揺を抑えて、世間話、例えばの話しをしている風を何とか維持しようとした。

「まずは、吾が国から得られる物は出来るだけ貰っておくことだ。」

 昨年、日本はインドネシアの独立を認め、建国が宣言されたが、行政~軍事に到るまで、日本からの人物両面での支援を受けており、完全なインドネシア化はまだであった。特に、軍の人材、装備はまだ、まだである。機材はまだ十分な量が届いておらず、訓練はその不足した機材を使いこなすほどにも進んでいない。

「その上で、我が国に形の上で、宣戦布告を行い、武装解除、武装の引き渡しを迫る、一応。米国との講和後も、君達への引き渡しは本来出来ないが、そこは秘密裏に、攻撃はしない、少しでも引き渡して欲しいと交渉するんだ。少しでも多ければ、それだけ助かる。そして、我が国の兵士で、君達の独立の戦いに加わりたいという将兵がいたら、これも秘密裏に受け入れて、厚遇して活用する。米国が君達を最初から支持してくれたら、その必要はないが、最悪の状況は想定しておくべきだね。持っている物は捨てられるし、他に利用も出来る。しかし、何もなかったら、何も出来ないからね。」

 スカルノは、小さく唸った。

「僕は立場上、神州不滅を事実として否定できないから、冗談半分だよ。」

「私も日本の敗北なぞ信じませんよ。」

 二人は、大きな声で笑った。

“ヒ100船団が着いて、その荷を受け取ってからだ。90%、この船団なら大丈夫のはずだ。”この船団は、この会話がなされる五日後に入港した。ほぼ100%の機材、兵器がその1週間後に引き渡し式が行われた。 

「新次元の隼」の隼四型、火星装備の零戦64型、雷電33型等新鋭機、75㎜砲、80㎜装甲、ガソリンエンジン装備で高速の海軍式戦車、多連装ロケット砲等がスカルノ達の前に並んでいた。ここでは並ばないが、40ノットを発揮する魚雷艇や駆潜艇の引き渡しもされることになっていた。

「完全な引き渡しが終わるまで待とう。」

 スカルノの指示に、この光景を見た同志達は納得していた。

 日本側でも異論がかなりあった。不要不急、少しでも日本側が欲しい時である、かえって反日行動に決起させかねないという主張があったし、旧式兵器で十分だとの意見もあった。引き続く資源の供給、戦争協力に対する見返りには不可欠、海軍の陸戦兵器の過剰生産、そして天皇から友好国軍創設に大いに協力すべしとの意向を受けた東条首相の協力なバックアップもあって実現したものである。米内光政海軍大臣も山本五十六軍令部長も、

「これについては全然同意。」 

と支持した。

 アジア各国は、戦後に向けた模索を行っていた。ビルマでは、既に日本軍にビルマ国民軍が宣戦布告をするなど動き始めていた。しかし、ビルマに侵攻した英国軍が宮崎中将率いる軍に大敗、海軍陸戦隊、陸軍の一部、艦船乗員、軍属、民間邦人、残留アジア各国部隊などをまとめた、到着していた追加兵器を配布した混成防衛隊にも撃退されたため難しい立場に立たされていたが、日本側が敢えて戦闘を行わなかったことから、戦う姿勢だけを示すことで、事実上の静観していた。タイでは、王族の一部が、タイの主権の一部を英国に割譲して、戦後の王位を得ようとする動きが活発化してもいた。インドシナでも、日本軍によりフランス軍が制圧され、独立に向けて準備が進んでいたが、各勢力による思惑が錯綜していた。

 後日、スカルノは助言?どおりに行動した。日本軍に銃を一応向けたが、お互いに死傷者は出なかった。インドネシア軍に加わる日本軍将兵もかなりいて、とにかく、長い独立戦争を勝ち抜くことができた。アジアは、色々な思惑は働いたが独立に動き出した。日本の行動が良きにつけ悪しきにつけ、そのきっかけになり、助けになったことだけは事実だった。最後まで頑なに認めたかったのは、一握りの日本人だけだったのは皮肉だったが。

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