第12話閑話休題2

「紫電改がP51とここまで戦えるのは…、性能的には、う~ん。高高度性能とパイロットの練度が大きいかな。この点、無理がないかな?」

 サタンは、頭の角に指を戯れさせながら、ためらいつつ、迷うように言った。これに対して、月読宮は、やはり難しい顔をしながら言葉を、探すように唸った。サタンは、彼が無理を実現させる介入をしたのかと疑った。しかし、彼の口から出てきた言葉を違った。

「野村達に加護を与えて、結果として邪魔した結果なんだけどな。それはともかく、ちょとした差なんだよ。」

 月読は説明した。開戦1年以上前に、パイロットの大量養成を始めたこと、米国に比べるとあまりに不十分だが、無理な作戦がなかったことで、この時期の日本海軍航空戦力の練度がある程度高くなっている。一方、米軍の損害がその分多くなり、比例して練度が多少低くなる。その循環が発生して、練度の米軍優位がかなり小さくなる。高高度性能の高い誉の開発も、栄や金星、火星での従来技術の改良の経験のフィードバックがあり、計画的に、敗北の追い詰められる気分、混乱がより少ないことで、この程度の時期に早まることになったと。

 例えば、二人が知っている“本来”の歴史では、昭和19年10月の台湾沖航空戦の時、紫電装備の航空隊は編隊飛行の訓練もまだという状況だった。この“歴史”では、この時点で紫電装備の航空隊では、一応必要な訓練が終了していた。それは、護エンジン装備の紫電の稼働率が比較的高く、訓練が進んだという事情がある。一方、米軍にあっては、“本来”では活躍するベテランパイロットのいくらかが、既に戦死し存在していない。それは、大きなものではないが、影響してくるのだ。護の生産を中止して、誉の生産を集中するていう策は、一見合理的と思われるが、既に量産化に入っているものを中止するデメリットは大きく、それでいて誉の生産数が飛躍的に伸びはなく、かえって不良品が多くでた。護装備の天山から、火星装備型開発までの混乱、天山の配備の遅れは生じなかったし、無理をしない合理的な生産計画で、誉の生産はかえって上手くいっている。

「陸戦兵器の生産にしてもだよ」

 月読は続けた。99式歩兵銃の生産では、必要な機能を落とさない程度で極力簡単化して量産性をあげる、更に機関部は能力のある海軍工廠で生産し、その他の銃床等の木製部分は、訓練用木銃を生産する工場で製造可能なのでそちらに任せ、生産を分担する。そのうち、新たな工廠をつくる、新しい、真っさらなところから立ち上げたため、過去の慣習に囚われなあから、新たな機械、管理工程を取り入れやすく、生産性が飛躍的に向上する、銃床等の木製銃床等の部分の製造の習熟度が高まれば、それだけで生産性が向上するし、簡素化、製造施設の近代化を海軍が支援する。どちらの生産も格段に増える。しかし、それでも足りない。機能を必要水準を落としては、多少とも生産量が増えてもなににもならない。だから、より製造が簡単な機関短銃、猟銃、大型拳銃、ブローイングなどの外国製拳銃のコピー生産、大型二連装拳銃の生産にはいる。機関短銃は、もちろん、陸軍の100式短機関銃、その簡素化版を銃床等をより簡素化したものだ。機関部は工廠、銃床等は木製銃床メーカーと歩兵銃と同様だが、こちらは、より簡単なため、支援を受けた猟銃、拳銃メーカーも機関部の製造に参入。プレス加工を全面に採用した独米とは生産性で、確かに及ばないものの、日本の当時の現状では、下手に追随するより効果的だったし、町の発明家達の協力で成し遂げられた成果だった。かといって、町の発明家、名人に任せたら、それだけで上手くいったわけではないが。歩兵銃の不足を、その性能を台無しにした濫造ではなく、不足は他のより量産できるもので補助して、必要な性能を維持する程度の簡素化での増産で我慢するという方針で進められた。

「ある意味、素人でこれから拡大する海軍陸戦隊ということで可能になったこと。それでも、本当に効果が出たのは、この時期。しかも、陸軍や新生東南アジア国軍むけ、民間防衛向けに役立った、それにはかなければ余ってしまうと言っても、欧米の水準から見ると月とスッポンではないが、月と星屑の差があったけどね。その上、混乱気味で、後からなんとかまとめるのに苦労しているけどね。」

「う~ん。確かに言われるとおりだね。」

「もし、野村達に虚名やら色々な加護を加えていなければ、全ての準備というかが1年早かったろうね。」

「う~ん。」

 サタンは唸った。文句を言えるところはないように思われた。確かに、突然天才が、あるいは発想の転換だけで素晴らしい作戦、新兵器が現れたわけではない。

 ミッドウェー海戦で、敵空母発見で即攻撃隊を発進させるべしとの主張をした者は、本来の歴史でも複数いる。あの時点、まだ魚雷から爆弾、艦船用爆弾から陸用爆弾への換装が終わっていなかった、状況はこのことでも混乱していた。結果は、日本側の完敗にはならなかったが、完勝にはなっていない。相対的には引き分け。

 ガダルカナル島も、当初、海軍も上陸兵力が1個師団程度と判断していたのが、引き上げ中の2~3000人程度ということになったのは、そうあって欲しいという心理とそれを出させようとする“有能”

な者のなせる技だった。“有能”ではないものは、そんなことは考えつかないが、結局、どうして2、3000人なのかの根拠を強要、責められ、「引き上げ中の」という言葉を引き出した。この言葉を、責めればいいだけなのだから、上は困らないし、出させた者は評価される。組織の中にはよくあることだ。

 同島守備隊への事前の増強、後のトラック島の対空兵器の増強も、多少であって、異様なことではないし、トラック島の警戒態勢を、あの時点にラバウル並に引き上げていても異様ではない。ちゃんとした人間の意見を取り上げ、彼ができるように支援する、助言すればいいのである。それがここではあったというだけの話だ。

「う~ん。」

 また、サタンはう~さんになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る