第9話戦い終わって
空母東京丸の甲板上では、海水(消化剤入り)ポンプの放水で、火災が鎮火した。爆弾3発、砲弾各種数発が命中したものの、幸いにも航行にはほとんど影響がなかった。開戦後、逐次強化された消化設備のおかげである。開戦直後であれば、消し止められなかったろう。護衛空母、大阪丸、愛知丸の二隻が沈没、一隻が大破をはじめとして、護衛艦30撃沈破、輸送船20隻の撃沈破、航空機は撃墜破、搭載艦の被害から発生した損失も含めて150機、ただし、物資の80%が無事内地に運ばれた。とはいえ、英国側にとっての戦果は、戦艦二隻撃沈をはじめとして、艦船の撃沈破は200隻以上、航空機撃墜破500機以上、ただし、物資の半分以上の輸送に成功したことを認め、日本側の戦略的勝利と英国側は判定していた。そして、ヒ100船団と護衛艦隊の奮闘ぶりを高く評価している。ちなみに日本側も、空母二隻撃沈、戦艦二隻撃沈をはじめ、30隻撃沈破、航空機400機撃墜・撃破としているから(実際は撃沈ゼロ、小破も含めて撃破20隻弱、航空機喪失117機)であるから、かなり過大戦果報告となっているが。ヒ100船団の誰もが、ただ全力、輸送船の全速力、10ノット/hで北上する船内、艦内、船上で、艦上でひたすら不安と戦い続けたが、その後も。
この戦いでは、別の物語も生まれた。野村少将が、彼の指揮による大活躍をするという、誰も見たこともない、幾つもの物語を後に語り、著作を残しているが、そのことではない。英国側は、初期的コンピュータを利用し、日本側の暗号を極めて短時間で解読していた。空でも、海上でも、解読の結果に基づき、機銃の引き金を引き、爆弾、魚雷を落とし、ロケット弾を発射して、主砲の引き金を引くことにより日本艦隊を撃滅した。ただ、暗号解読を察知されないため、あたかも通常の攻撃を装うことが必要であったが、一部に、それにとどまることができず、通常の戦闘を行った者がいたため、被害が多少とも発生してしまった。というものであった。
「何とか終わったようだな。しかし、内地に物質を運び込んで、任務完了だからな。」
大鷹の甲板上で佐伯司令官は、自分に言い聞かせるように言った。
「もう少しですが、気を緩められませんね。」
倉田は佐伯に同意した。ずっと平静を保っているかのように見せていたが、何度も、もう駄目だと思ったことを思い出した。その自分が最後まで取り乱さなかったのは、どんな時にも動じることなく、落ち着いた姿で目の前でしめしてくれた佐伯のお蔭だと、あらためて思った。その彼の目に、偵察と偽装のためのアルミ片散布から帰還して着水しようとする紫雲の姿があった、僅か2機、他に配備されていないため、部品の供給で難儀をするなど、パイロットも整備員の不満が大きかったが、敵の戦闘機を振りきって、何度も帰還した現実を体験してみると、打って変わって絶讃さえしてくれている。無理して配備を実現させた彼も少し嬉しくなる。その後船団は、三度潜水艦の襲撃を受けたが、ぎりぎりで、本当にぎりぎりで当たらなかった。この船団が次に、日本をたつことになるのは、2ヶ月後のことであった。
この時、内地の大和通信隊から、何度も英国海軍の通信コードを利用して、日本の主力艦隊、連合艦隊の出撃、接近や攻撃機の大編隊情報を偽装する通信を形を変えながら送り続けていた。このニセ情報、通信を受信した英国艦隊は艦隊をまとめ直さなければならないとして、その後は脅威が近づいている、用心のためとして大急ぎで後退していた。これについても、初期コンピュータによる日本側の暗号解読により、事前に展開していた戦闘機、爆撃機、攻撃機の編隊、艦隊陣形で日本側に大打撃を与えたというコンピュータ開発史の中に記されているだけではあるが、もうひとつの物語も生まれた。英国側の大戦果に対し、損害はいかにも偵察の結果と偽装するために飛ばした航空機が1機喪失しただけであると。その1機は、大和通信隊の偽通信に対して、迫る日本艦隊の偵察のため飛ばしたことによるものであったが。
無事に富士山の姿が見えた時、誰もが思わず目がうるんだ。
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