第8話英国艦隊対ヒ100船団3

 零戦、強風、紫電改がシーファイアーと激しく戦っている中、特に強風の追撃を受けながら、英国機は、ヒ100船団艦船に次々と魚雷、爆弾を放った。対空用射撃電探を持たない日本側の対空射撃は正確さに欠け、大部分が旧式の12㎝高角砲、各艦船2門~6門、はては短12㎝砲、短20㎝砲まで混ざっている。高射機関砲である96式25㎜銃は威力不足で跳ね返されるばかり、奮進弾も次弾発射に時間がかかった。日本側の対空射撃は花火のように効果がなかったし、英国側から低く評価されたと日本側では信じられている。英国側では、正確な対空射撃で周囲を間断なく砲弾が炸裂し、ロケット弾が周囲を覆い尽くした。更に、多数の高性能高射機関砲が正確に威力甚大の死の銃弾を送り続けたとしている。

 不屈の精神力と技量で、その銃砲弾の嵐の中を掻い潜り、200個以上の爆弾、魚雷が投下された。命中した魚雷は20本以上、爆弾は50発近くに上ったはずだが、日本側の記録と被害状況からは、命中は、魚雷6本、爆弾13発前後にとどまるのではないかとされている。英側は、確実に大型正規空母2隻、水上機搭載重巡洋艦4隻をはじめとした軍艦20隻以上を撃沈破、輸送船30隻以上を撃沈したと報じている。実際は戦時標準船改装空母1隻をはじめとした、軍艦7隻撃沈破、輸送船10隻が撃沈破していることになっている。日本側の彗星、天山、流星、瑞雲は数は少なく、編隊を組むどころではなかったし、護衛もなかったから、単機でゲリラ的に忍び寄ることしか出来なかった。気が付くと、高速で近づいてくる彗星が、又は流星が目に入った、いや既に急降下に入っている。低空では天山が迫ってきた、それを誰かが叫んで知らせた。低空で忍び寄った瑞雲が急上昇後の急降下に入って、もう目の前にいる。100機以上が確認されたとされている。魚雷3発、250~800㎏爆弾10発を命中させたとする日本側の主張だが、実際は魚雷1発、爆弾3発命中にとどまっている。戦闘機の迎撃や射撃レーダーとレーダー信管による対空射撃等の状況と命中率を考えれば非常な幸運に恵まれたというところだろう。もちろん、沈没艦はないし、英国艦隊の戦力的損失はあまりにも小さかった。それでも、魚雷や爆弾の回避行動で艦隊の陣形が乱れ、追撃に遅れが生じた、その後も、このことが各艦の行動に悪影響を与えたということが大きかったと英国側は評価している。ある艦は20発以上の魚雷、爆弾を回避したという証言をする乗組員が多数いるという、ほぼ全機がその艦に集中攻撃していなければ計算があわないというものも多かったが。第三次の航空攻撃の後、英国艦隊そのものが迫ってきた。10ノット程度が最高速度の輸送船を中核とする船団であるから、最低でも30ノット前後が出せる艦で成り立つ英国艦隊に距離をつめられていく。戦艦主砲の砲弾が各艦船の周囲に水柱を立たせる。その先を走る駆逐艦、巡洋艦の主砲の射程内に入ったのも、それからさほど時間はかからなかった。水柱が間断なく立ち、水柱の壁ができて、それが各艦船を取り囲んだと言う。ヒ100船団は、護衛の艦だけでなく、輸送船各船も、装備する砲を発射した。輸送船に装備されているのは、長短8㎝砲、短20㎝砲、短12㎝砲、12㎝砲、14㎝砲、15㎝砲が各船2門テイド、特に15㎝砲は明治時代の旧式砲だった。護衛艦のそれも、12.7㎝砲が加わり、短12、20㎝砲がないだけと各艦の装備数が多いだけだった。それでも打った。英国側の記録では、日本側の40㎝から4㎝までの砲の射撃は猛烈だった、砲撃の炎で燃えていると錯覚したとも言われている。そこには、かなり存在していないものがあったが。特設巡洋艦各艦は、船団を守るため、前に出ようとした。戦時標準船の改装艦であるだけに図体が大きい、速度が遅いだけに、砲弾が集中しがちであった。それでも、前進して、旧式砲を撃ちまくった。貧弱な射撃装置で、練度も十分とはいえなかったが、それでも時々命中さえした。中には、幸運な偶然、英国側にとっては不幸なことだが、キングジョージ5世の射撃用レーダーを破壊した一弾すらあった。また、大鷹の高角砲弾が、もちろん対艦用砲弾を撃っている、命中するということもあった。基本的に逃げ回る日本側艦船に対して、命中する砲弾は大小いずれにしろ、意外なほど少なかった。英国側の、艦船100隻以上撃沈破というデータからですら、そういう分析となっていた。しかしながら、そうであっても、砲撃戦では一方的に、日本側が炎上、破壊、沈没という状況だった。それが、英国側が撤収したのである。

 十数本の魚雷が迫ってきたのだ。それが、四度繰り返さされた。それに、丁型駆逐艦、水雷艇などからの魚雷も加わり、多数の酸素魚雷が戦場海域を駆け巡った。このため、英国艦隊各艦は、魚雷回避のために、バラバラになってしまった。これに輪をかける形で、砲弾で炎上し、追いかけ回されていた輸送船や特設巡洋艦、時には海防艦が突然向きを変え、向かってくるということがあいついた。それが絶妙なタイミングで行われたため、いい目標とはならずかえって、回避せざるを得ない、慌てて舵をきる、後続の艦はそれに従うのも、したがわないのも混乱し、その前の諸艦は、いつの間にか、後続がいないと慌てることになった。英国側は、日本側の集団自殺、集団ヒストリーと分析し、日本側は味方を守るための自己犠牲、死んでも船を動かしたとしたが、双方が言い立てるほどの数はなかったものの、実際にあり、英国側を混乱させことは事実だった。そうした中、何本かの魚雷がかなり離れたところにいた空母のところまで到達し、回避行動を行ったこと一発が、空母の至近距離で爆発した。被害はなかったものの、英国側は多数の日本側潜水艦が周辺にいるという判断をしてしまった。そのため、混乱する諸艦の状況もあり、撤収命令が発せられることとなったのである。酸素魚雷の大半は、重魚雷装艦、大井などからだったが、兎に角輸送船を守るためということもあり、命中魚雷は3発だけで、沈没艦はなかった。戦艦アイアンデュークとレナウンが、一発づつ食らい、一時的に速力が10ノット程度に落ち、傾斜がかなりなものになったが。

「魚雷一発で、こんなになるはずはないぞ!どういうことだ!」

 大きかったが、一回だけだったのは、艦長も分かっていることだったが、そう言いたくなるのを我慢出来なかった。

「同時に、3本が直撃したのではないでしょうか?」

 一人の参謀が機転をきかせて言った。艦長は大きく肯き、参謀の評価をあげたが、その報告をあげるように命じられた将校は苦労することになったが。報告をあげる度に、

「どうして、これで3本同時に命中したといえるのか。1本だったんじゃないのか!」

と散々怒鳴られ、報告書をたたき返されることが続いた。その叩きつけるのは、三発同時命中を提案した参謀であるのだから、泣くに泣けなかっただろう。

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