第7話英国艦隊対ヒ100船団2


東南の方向に、英国艦載機、第一次攻撃隊156機が肉眼で見えてきた。シーファイアーに護衛された雷撃機、急降下爆撃機である。さらに、既にほぼ同数の二次攻撃隊が発艦しつつあった。更に、かなり無理に、急いで編成した、インド・太平洋英国連邦艦隊は、30ノット前後に速力をあげ、水上艦隊としても、最大でも10ノット前後のヒ100船団を捕捉しようとしていた。

「空を覆うような大編隊。」

は、日本側の証言であるが、英国側は、

「倍以上の戦闘機が襲いかかってきた。」

と回想している。大西洋北部とは異なる暑さと湿度に人も機体も苦しんでいた上に、大急ぎで集められたため、これまた人材も、機材も各地から寄せ集めに近い状態であったと、多くの英国側参加者は証言しつつ、この困難を愛国心で耐え、圧倒的敵に、最終的に勝利を得たと誰もが断言している。上空から、ようやく通じるようになった航空無線で何とか連係を多少ともとった零戦各種機が襲いかかるのを、シーファイアーが向かい打ち、次々に巴戦に入っていった。実際は、シーファイアーが数的には、第一次攻撃隊だけでもはるかに優勢だった。栄21型の高高度性能向上、馬力アップ型をつみ、性能的型ハミルトンプロペラ装備、前後の防弾ガラス、自動消化装置、胴体防弾タンクを装置した零戦52型乙後期型は、軽々とシーファイアーの後方に回り込み、速度が数十㎞速いはずのシーフャイアは意外なことに、追ってはなかなか追いつけず、振り切ろうとして容易に逃げれなかった。急降下しても、高度9000mまで上昇しても、状況は変わらなかった。それでも、英国側の記録では、果敢に格闘戦に持ち込み、たちまち1機を撃墜、しかし、後ろにはすでに零戦1機が忍び寄っている。その時、僚機がすかさず仕留める。敵討ちと、後方に回り込んできた3機目の零戦の攻撃を僚機と共にしのぎ、反撃にでる。巧みに逃げ回る零戦に手こずりながらも、僚機と協力してついに仕留める。大馬力型零戦や雷電が、上回る速度、上昇性能で攻撃してくるのを格闘戦に持ち込み、僚機との連携プレーで、撃墜、撃破しているうちに、低空で雷撃機、急降下爆撃機を追う水上戦闘機の姿を発見して、急降下して、間一髪で20㎜砲4門の一連射、強風は火を噴いて高度を落とし、海面に激突はして四散したとの記録があった。艦載タイプの雷電は存在しないから、いるはずはないのだが。日本側側では、米軍と異なり、格闘戦を果敢に挑んでくる英国側を評価しつつ、戦いやすいと感じていた。一方、零戦52型乙後期型は、翼内タンクが自動消火器だけであることが弱点のはずだが、「弱点の胴体タンクの防弾が施された」と搭乗員から評価されていた。突きだして邪魔なはずの13㎜銃は、「7.7㎜銃2丁より威力がある」と喜ばれることはあっても、邪魔だと言う声はなかった。巧みに後方に回り込み、後ろをとられてもたくみに後ろに回り込んで20㎜銃2丁と13㎜銃1丁の銃弾が包み込んで撃墜する。後方をとられても、ヒラリと後ろに回り込み、急降下や上昇で振りきる。零戦に格闘戦を挑む勇敢な英国機は次々に火を噴いていく。零戦52型乙後期型が普通乗用車なら、装甲車だと言われた63型丙後期型は、一撃離脱で長短20㎜銃4丁で撃墜撃破し、さらに格闘戦に引き込もうとするのに、そのまま受けて立ち、そこでも優位に戦い、撃墜を重ねていった。金星40系エンジンを第二航空技術廠、改良を主としてする補助的な部門として独立した部署だが、が試しに零戦に装備したところ、意外に高性能だったため、別系統の零戦として生産されることになったもので、52型系統よりも早く登場している。水噴射装置付き金星50系統に換装することなく、40系の改良と新型プロペラ等で性能を向上させてきたが、52型系統と比べて高速、重防弾、強武装である。一本化出来なかったのは、海軍首脳の格闘戦重視よりも、概して63型がパイロットに不評だった一方、強く支持するものも少なくなかったからである。一方、シーファイアーが、43年型スピットファイアー水準の機体で、艦載機化の重量増等で更に性能が低下していたので、不利な条件下であったが。前述の比較では、2式水上戦闘機はオートバイとされるが、戦車に例えられるのが、水上戦闘機強風と局地戦闘機紫電改だった。それでも、格闘戦では、両機とも完全にシーファイアに対して優位にたったが。水上戦闘機だけに、速度が零戦52型乙後期型と比較してもかなり劣る強風22型後期型は、それでも、火星10系エンジンと強制冷却ファンの改良と新型4枚プロペラで11型から大幅に性能が向上して、零戦21型並だったが、その99式2型20㎜銃4の火力を活かして、主に雷撃機、急降下爆撃機の迎撃を分担した。大鷹に迫る雷撃機を、全速力で降下、一連射で炎上させるが、とどめという時に気がつくと、シーファイアーが後方に迫ってくる。防弾がかなり充実されているから、一撃くらいではビクともしないが、紫電改で完成された自動空戦フラップは、ひらりと射線を外して、後方に回り込むことを可能にしている。20㎜銃弾を撃ち込む。低空では、なかなか逃げられないシーファイアーは、火を噴いては海面に落ちていく。中には、高度8000mまで勝負がつかず、それを越えてようやくシーファイアーを仕留めた者もいた。紫電改は、要撃には加わらず、攻撃にまわった少数の彗星、天山、流星の囮を兼ねた制空隊として戦った。高速水上偵察機紫雲がばら撒く、アルミ片に続いた。ちなみに、紫雲はフロートを投下することなく、振りきるように帰還していた。紫電改4機は、殺到するシーファイアーを相手に、縦横無尽に飛び回った。「P51並の高速だった」、「火力も、防弾も並ではなかった」ため苦闘したが、「シーファイアーは次々に紫電改を格闘戦で撃墜したが、後から後から一撃離脱をかけられ、気を抜ける時間が全くなく、こんなことは欧州戦線では体験したことのない苦しいものだった」が、「シーファイアーのパイロット達はやり抜いた」と英国側は記し、日本側では圧倒的多数のシーファイアーを格闘戦で次々に撃墜し、速度、上昇、急降下で容易に振りきって、圧倒したと記録されている。一方、零戦隊も、強風隊もシーファイアーに、雷撃機、急降下爆撃機への攻撃を巧みに妨害されたと、日本側も評価する一方、英国側雷撃機、急降下爆撃機のパイロット達は、執拗に日本機に追いかけ回されたと述懐している。勿論、自軍のシーファイアーが、自己犠牲も顧みず、自分達と日本機の間に割り込み、援護に奮闘したとも口を揃えて主張している。

 第一次攻撃隊が引き揚げると代わって第二次攻撃隊が現れた。航続性能の差で、急いで引き揚げる英国側第一次攻撃隊、そのまま引き続き要撃にあたる零戦、強風。この間、やはり引き続き飛び回る紫電改と交代するシーファイアー。

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