第6話英国艦隊対ヒ100船団
内地の大和通信隊本部は、騒然としていた。数ヶ月前に移転した施設には、最優先で必要な機材が運び込まれていたが、それだけにこの部隊を海軍が重視しているかが分かる。前の施設が手狭になったため、移転したのだが、移転先の候補の一つに有名な津田塾大学もあった。結局、津田塾大学は他の複数の候補とともに落選したのだが、戦後、キリスト教と西洋合理主義の拠点潰しのためにやってきた憲兵を、知恵と勇気で追い返したという伝説ができたが。視察に行ったのは、憲兵ではなく、大学を卒業して海軍に入った予備士官で、やたらに、わけの分からないことを声高に言い立てて騒ぐおばさんに閉口したと記しているが。それはさておき、この部隊は、通信傍受を中心に、暗号解読、通信内容の分析等により情報を収集し、解析する、即ち情報部である。暗号解読が限界となり、通信全般の多角的な分析を行う方向になっていた。連合軍の暗号解読が進まなかったのは、暗号通信内容が長くなり、日本人の英語読解力がついていかなかったことが、原因では、と元予備士官は語っている。情報は、重要な戦力である。そして、大和通信隊は、連合軍側から、暗号が解読されているのではないか、という疑惑を持たれるほどの成果を上げ、海軍全体の期待を集めるに到っていた。暗号の一部解読も含めた結果、中部太平洋に集結した英国艦隊は、イアストリアスを初めとする空母8隻、キングジョージ五世、デュークオブヨーク、アンソン、ハウ、レナウンの戦艦・巡洋戦艦5隻、ヨーク級等の重巡洋艦、ダイドー級等の軽巡洋艦、トライバル級等の駆逐艦、航空機400機以上からなる大艦隊であることが判明した。ちなみに、艦名もほぼ正確に把握された。
「英国さんは、機動部隊として、ありったけの戦力を持ってきた。」
と海軍では唖然とした。情報の分析結果は、ヒ100船団を中心とする大輸送作戦を壊滅させることが目的だと結論づけられた。
「輸送船の撃沈のために、これだけの艦隊をもってくるか?」
そんな疑問が海軍内部ではあがった。そのため、ヒ100船団などへの連絡や支援は待ったほうがよいのではないか、もっと様子を見たほうが良いのではないか、という意見もでた。
「英国としては、存在感を出したいところではないか?」
米内光政海軍大臣がボソッとつぶやくように言った。本当は、”戦後に向けて“を心の中で付け加えていたが、それは口に出すことなく飲み込んだ。ドイツも降伏し、日本は孤立無縁、フィリピンでは陸軍では、戦車師団主力、三式戦車を主力に、海軍が譲渡した海軍改造97式戦車、海軍型一式戦車が加わった、が数を減らしながも、捕獲M4などを加えて奮戦中、制空権を奪われた中で、海軍の特殊潜航艇丙型、蛟竜そして魚雷艇は、数を減らしつつも、度々出撃し、襲撃をかけている。とはいえフィリピンが米国のものになりつつあり、態勢は日本に不利であり、連合軍側各国が、戦後秩序、自分達の地位を考えているのは当然のことだが、それを口に出すわけにはいかなかった。それでも、状況は一変して、英国艦隊に関する情報を即時にヒ100船団に送ることなった。
”しかし、どうして、このことを躊躇したのか?ああ、彼らか、しかし、何故彼らの主張にしばらく耳を傾けてしまったのか、また?“
米内光政は、結局は自分達の名作戦がまた無視されたと恨み顔の連中を見ながら、しばし自問した。
ヒ100船団のほうでは、連合艦隊司令部経由点で届く英国艦隊の位置情報で、もう攻撃範囲内に入るということで、本格的にあわただしくなっていた。
水上機母艦から、クレーンで降ろされた強風22型が水面を滑走して飛び上がっていった。それに続くように、他の艦から降ろされた同型機が次々水面から、フロートから海水をしたたらしながら、空中に浮き上がっていった。翼内に20㎜99式2号4型銃4丁を装備し、防弾も防弾ガラス、8㎜鋼板、防弾タンク、自動消火装置など一応完備しながら、推進式排気管、ハミルトン新型4枚プロペラ、強制冷却ファンの改造等で馬力、高高度性能をアップさせた火星16型エンジンで非行性能も、11型と比べるとかなりアップさせている。自動空戦フラップも紫電改並みに洗練されたものとなっている。
大鷹を初めとする護衛空母からは、3式離陸促進器の火薬ロケットの炎を噴出させて、紫電改、彗星、天山、流星、零戦63型系が次々飛行甲板から飛び出していった。その間隙を縫って零戦52型系がするすると飛び立っていく。何時は、
「天山、彗星は絶対乗りたくないな。」
と言って、一に97式艦攻、二に99式艦爆と離着陸が容易な機体を対潜哨戒任務では好んでいた搭乗員達も今日ばかりは、天山等の機体に乗れない者達は涙を流さんばかり無念を噛みしめていた。中には、97式艦攻で飛ばしてくれと艦長にまで嘆願に行くものすらいたが、
「犬死にして何になる。」
「敵の戦闘機のいいカモになるだけだ。」
「この後、対潜哨戒してもらわねばならないのだ。お前達まで死んでしまったら、誰が空から、潜水艦から輸送船を護るんだ。」
と諭されるだけだった。
「瑞雲も飛んでいく。」
水面から浮き上がって、上昇して行く水上偵察機瑞雲を見て誰かが言った。勿論、250㎏爆弾を胴体につけている。流星を初めとして爆弾、魚雷を積んでいる機体は単独で、敵戦闘機を掻い潜って、敵艦隊に一矢報いる、その分だけ輸送船を護るために飛んでいく。味方の戦闘機は、ひたすら艦船を敵機から護るのだ。戦闘機の任務も危険だが、攻撃する機はもっと危険だった。そのことはよく分かっていたが、この時は、その危険の中に身を投じることなく、艦内で待つしかない自分に寂しさを感じていた。
珍しく大鷹甲板上で台車で運ばれている21号電波探信儀がまっ先に、航空機の大編隊をまっ先に捕らえた。しばらくして、13号電波探信儀も捕捉する。各艦の高角砲、高射機関砲が仰角をあげ始める。
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