第4話閑話休題サッちゃんとツキやんの会話

「いやあ、誰もなにも悪いと言っているわけではないんだよ。ツキやんが好きにやっていいんだし、みんなもよく分かっていることなんだし、とがめようなんて奴はいないよ。」

 背中に羽根をはやした、黒を主体にした衣服を纏った男は、遠慮がちに言った。語りかけている対象の方向は白い服装で、髪の毛を変わった形にまとめていた。彼が難しい顔で黙っているのを見ても、機嫌が悪いのではないかと思い、

「ただ、ブッちゃんもキーやんも、あんまりあの世界と異なるからさ、ちょっと介入し過ぎていないか心配しているだけなんだよ。あれだろう、一度創造したら、あまり強制するのは、愛護精神に反するだろう。自由に委せる、できるだけ。預言者を送り込んでとか、まあそれはそれでどうなのか、というところはあるわけだけど。」

「わかるよ。昭和20年5月に、客船改装空母や戦時標準船改装ながら護衛空母が6隻を中心とした大船団が英国機動部隊と激戦を繰り広げるというのは、おかしい、チート過ぎるとか思えるのは当然だよ。実は、全く反対の意味で、僕は介入しなければならなかったんだ。」

「え?と言うと?」

「一生懸命介入して、ようやく、この程度で収まることができたんだよ。このような状況は、君達が心配する状況は、出来るだけ、みんなが知る世界に近づけるために、随分介入して抑えた結果で、そうしなかったら、もっと、ずっと異なる結果になった、ということなんだ。」

「は?」

「例えば、ガダルカナル島に米軍が上陸を開始した。この世界での日本海軍は、ツアギ基地に、まだ陸戦兵器の生産が立ち上がったばかりの中、在庫をかき集め、当初、600名に小銃35丁という状態の設営隊をギリギリで総員武装化させ、ガダルカナル島でも当初250名の陸戦隊を1000名まで増強、設営隊の武装化もある程度進めていた、こちらも四苦八苦して。まあ、どちらにしても、前者は数日の奮戦後殆ど全滅、残った少数がなんとか救助され、後者は多勢に無勢で抗戦数日でジャングルに撤退になったけどね。ガダルカナル島守備隊は、米軍が1個師団程度と連絡したのに、大本営は5000名程度、どこからか撤退してきた部隊と断定した。しかも、どこからか撤退してきたか判然とさせずにだよ。これは、野村達が、どうして1個師団程度と言える、根拠を示せ、これが本格的攻撃だと大変なことで異なった間違いですまされないぞ、と状況をまとめる将校に厳しく詰問したため、困った将校が、その意に沿った内容を苦し紛れに考えたものだったんだ。さすがに、1000名の陸戦隊が撤退したのだから3000名程度にはならなかったんだけどね。」

「まあ、得てして、そういうことが組織では起こりがちだね。でも、この世界では、日本側は早期に正しい認識に達したのだろう?」 

 それが、君の異常な干渉だと疑われているんだよ、と同情するような表情で見つめた。

「もし、過剰干渉だというならば、逆の方向なんだ、問題は。」

「それはどういうことだい?」

 彼は、まるで見当がつかない、といった当惑した。

「僕によって、野村達は影響力を持ち得たんだ。僕が、あの世界に近づけなくてはと思って手を加えなければ、野村達達は何の影響力もなく、初めから正しい対応になっていたし、例えば、陸戦隊とその装備の生産とか、護衛艦の建造もスムーズだったんだ。いや、そもそも野村達など何らかの役割すら演じなかったんだ。彼らは僕のおかげで有能な海軍幹部顔が出来ていたんだよ。」

 「ツキやん」は、皮肉だろ?という顔を向けた。「サッチャン」は、頭の二本の角をさすりながら、困った時の彼の癖だったが、

「全くだね。」

と絞り出すような声で答えるのがやっとだった。

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