異形どもの抗争#5
瞬時に最高速に達し、全速力で異形どもの乱闘会場に突っ込んだ。
進路上では餓狼と魍魎が争っている。魍魎は何をしてくるか分からない。形状が理解できないし、急所も分からないので、なるべく近づかず中距離をカバーできる隙の少ない技によって進路をこじ開ける。
餓狼は、恐らくは全員
ハーミットは鮮やかな舞を披露するように継ぎ目なく技を繋ぎ、決して立ち止まらず暴力の嵐を駆け抜けた。
こうしてバンダースナッチや羅刹以外の怪物に手を出してみると、実はあの二体の戦闘力が
だが、突然立ち塞がる羅刹や、非常に攻撃的な外観の魍魎には肝が冷える。そういった手合いは相手にせず、迂回して対処した。向こうも乱戦の
とはいえ、それでも無傷とはいかず、不意に受ける流れ弾によって、徐々に身体の至る所で痛みを感じる箇所が増えていった。
たった二百歩の距離が遠かった。時折異形に組み付かれても、委細構わず撲殺して走った。やがて、ようやく朝陽を背にした枯森の入り口が目前に迫ってきた。
最後に立ち塞がったのは、あのハーミットの髪を引きちぎった三本角の羅刹だった。先ほどの爆撃でこんなにも遠くに飛ばされていたのだ。羅刹は相当な傷を負った様子で、胸部が無残に破裂し、片腕が千切れ、体中の硝子装甲が剥がれており、角も半分折れて瀕死の状態にも思えた。もはやあの時の圧力は
その姿を認めたハーミットは
敵が弱っていることを考慮に入れた実験でもあった。いざという時に使ってみたら効きませんでした、では
小技は
ハーミットは失いかけていた自信を僅かばかり取り戻すと、右脚を高く振り上げ、落下してきた羅刹の身体が地面に付く瞬間を狙って
体内に蓄積したアドレナリンの味を噛み締めながら、ハーミットは振り返った。
断崖には無限の暗幕が広がっていた。闇黒は夜明けを迎えた今でも見通せない。むしろ、この場に陽光が差したが故に崖の輪郭がはっきりとして、より一層その不気味さが立っていた。こうして
崖下から浮き上がった暗紫色に輝く塊は、今や拳大ほどの大きさにまで遠ざかっていて、あたかも月のように闇夜の空に浮かんでこの現場を
月の光を受けて怪しく光る瑠璃の祭壇は全壊し、オベリスクはもうなかった。
背後から差す陽光。上空から降り注ぐ青紫の光と、それを受けてネオンに輝く色硝子。響き渡る重低音。不気味な鳴動、咆吼、絡み合う肉、飛び散る血液、粘液、鮮血の蒸気。依然として続く
この場所は狂っていた。
混戦の中をバンダースナッチが暴れ回っていた。輝く羅刹や白亜の餓狼は一群となってバンダースナッチに善戦している様子だった。多くの餓狼が踏み潰される中、羅刹は真っ向からバンダースナッチの牙を受け止めていた。
それら全ての光景を脳裏に焼き付けると、ハーミットは夜明けの方角に向き直った。
両手はケロイド状になって
断崖からここまで。たったそれだけの距離を切り抜けただけで、身体がぼろぼろになった。右も左も分からない。今の自分には、物資もなければ頼れる仲間もいない。この枯森を
見据える先には枯れた木々がまばらに立ち並び、葉の繁みというものがない。生者の存在は全く期待できそうにないが、無機質な殺意は充満しており、全身の産毛がちりちりと危険を感じ取っている。
白く立ち枯れた木々のせいで視界が悪く、地表の色硝子のせいで足場も悪い――硝子が多すぎる。土よりも色硝子の面積の方が多かった。
それでも――――。
あの娘を見捨てていくのか、という根拠のない非難が背中から聞こえた。同時に、約束を果たせという内なる声が背中を押した。
遠方で燃え上がった空に向かって、ハーミットが静かな決意を胸に一歩を踏み出す。
その左手小指には、藤色の娘から託された
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