第一章 彼は戦うことを決めた
プロローグ2 彼は天使を見た
一真は光の中にいた。
痛みも苦しみも悲しみもない、ただ白い光だけの場所。
自らの体も姿もどこにあるのかわからない。
この光が目で見ている物かすら、一真には分からないのだ。
光の中に漂ううちに、感情は落ち着いていった。
何かとてつもない衝撃とともに激情はなくなっていったのだ。
ただ鉛のように重く、海のように深い、悲しみ嘆きそして怒りが、澱のようにうずくまっていく。
ふと、流れを感じた。
父への想いを抱えながら、少しずつ、一真は流れに乗っていった。
「もし」
声が聞こえる。
「もし……」
鈴が転がるような、澄んだ声色だ。
一真の意識が次第に浮かび上がる。
「起きてくださいな」
目を閉じてもどうしても一真のを囲んでいた光は既にない。
一真は暗闇の中、意識と体を同一させた。
目覚めの時だ。
「うぅ……」
一真はうめき声を上げて身をよじる。
「きゃっ」
澄んだ笛を強く短く吹くような悲鳴に、一真は目をゆっくりと動かした。
ぼやけた視界に、昼の明るさが眩しい。
「あ、大丈夫、ですか?」
目が馴染み、視界が戻ってくる。目の前に、一真を見つめる顔があった。
「うぁ」
整った顔立ちに肌理の良い肌、大きな目には青碧の瞳。
あまり日に焼けていない金砂のような髪が、日に照らされきらきらと輝きながらこちらに流れている。
一真は、少女の顔を見上げ、見とれた。
「天使……か?」
「てんし? いえ、てんし、ではありませんが……」
一真は上体を起こす。少女も身を引いて、一真に声を掛けた。
「意識は戻られたようですね」
小さな顎、その上のすっきりとした頬にはやや紅が差し、その下には細かい刺繍の施された襟元から細い首筋が覗いている。
そして一真がいままで見たことがない服を着ていた。
一真の印象としては、古いヨーロッパの豪華なドレスにケープやマントを足したような、豪華な服だ。
「ここは」
少女の服を見て、コスプレだろうかと思った。
だが地面は草に覆われ、木々に囲われたこの場所は、一真の記憶にはない。
湿気のない乾いた空気、のような雰囲気は、一真の住んでいた街ではありえないものだ。
だが、少女の言葉は分かる。
「どこだ?」
「ゼクセリアの宮殿裏にある森ですが」
一真の知識に、そんな場所はなかった。世界のどこにも、なかった。
すこし、時間は戻る。
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