第6話 群青日和②

 電車に揺られ窓からの景色を眺める。見えてくる景色はビルが建ち並ぶ分かりやすく都会。誰が見ても東京、その中心地。新宿。


 扉が開く。こんな時間なのに降りる人は色々な世代、色々な立場の、色々な年齢の人達。


 当然、スーツ姿のサラリーマンもその中にはいる。


 関東に帰ってきてから自分が外に出る時間帯もありあまり見ていなかった。けど当たり前にいる働く人達。

 

 じゅくりと少し心が化膿した。それを見てるとそんな気がした。


 ギッチョンと会うまでの時間をどう埋める?と伶に問いかける。


「……とりあえず西口の喫茶店に行かない?熱いし、タバコも吸いたいし」


「てか、マジであっちーな。いや暑いよ。凄いよ。マジ暑いよ。飲みたいよ、もう。飲みたい口。てか喉になってるよ」


「…………こんな時間から飲むの」


「飲むよ。飲みたいよ」


 もう俺はビールを喉に通したくなっていた。そりゃだって暑いし。のどごしとか欲しいし。


「無職。昼間。ビール………。つまり駄目人間」


 冷たい視線を伶は俺に浴びせる。別にゾクゾクはしない。


「ダメニンゲンて。何を今さら、お前……。無職。昼間。ビール。女の家に居候。それつまりヒモ……。いや、ホント何を今更……」


 開き直られても……と呟く伶の視線は更に。更に冷たくなった。やっとゾクゾクしてきた。けど別にそれは気持ち良くは無かった。


 中央東口の改札から出る。そしてそのまま駅の構内にあるビアバーに入る。


 俺はホットドッグと黒ビール。腹が減ってたのか伶はソーセージの盛り合わせとエーデルピルスを注文した。


 喫煙席である立ち食いの方でペロリとお互い目の前あった皿の上のものを空にして、ビールを喉に通した。伶と俺はカウンターで隣り合って時間を潰した。


「いっちゃん。てか新宿ていつぶり?」


 デュポンのライターでタバコに火を付け、紫煙を吐くと同時に伶は尋ねてきた。


「知らん。少なくとも俺海外行ってたし、働いてからずっと行ってねえから……いや待てよ、そーいや東京の支社に行ったな、数回」


「いっちゃんの会社あるの?」


「いや俺の会社じゃないし。つか辞めたし。俺無職というか半ば女のヒモだし」


「さっきからヒモになってる女の前で堂々とヒモになってる宣言。それやめて。マジやめて」


「分かりました。すみませんでした」


「うそ臭い程、素直なのマジでやめて」


 と言いながら伶はクスリと笑った。そのくたびれたとか気怠げとか。そんな感じの笑顔。やはり綺麗だなと心の中で思った。


「てかそれなら会っちゃうんじゃないの?会社の人に?」


「会っちゃうかもね。けどまぁ大丈夫っしょ」


「まぁそりゃこんだけ人いたら分からない。というか会ったところで声かけられないよね。そりゃ」


 そりゃ。てなんだよ。いやそりゃそーなんだろうけどと。ビールを再び通そうとグラスを口元に近づける。


「高木先輩?」


 名前を呼ばれたので右を振り向く。


 そこにいたのはスーツ姿の若い女性。黒い地毛のショートカットの髪型をしている。明らかに会社員。


 というか知っていた。


「高木………先輩ですよね?」


 と言うか俺の辞めた会社の俺が海外で働いて時の部下?後輩?と少し曖昧な感じの女性。


 と言うかマジで鬼のようにキツかった海外時代に彼女がいなかったらどうにもならなかった。


 職場も。そしてプライベートも。


「いや何黙ってるんですか?高木先輩ですよね??いやっ!!会社を辞めたってのは聞いてましたけど、何やってるんですか!!こんな所で!」


 と言うかぶっちゃけ海外いたときにお互い寂しかったし。まぁ海外だしバレやしないっしょ。と寝まくった。言葉変えたら毎晩ヤリまくった。爛れまくった。そんな相手。


 俺の元会社の後輩。西本美織。


 彼女はテンションが上がりまくっていた。そして俺は下がりまくっていた。ふりむいて確認はしてなかったけど確実に伶の方から冷たい視線を感じた。本気のゾクゾクを感じた。ちょっと気持ち良くなってきた。


「チガイマス。ヒトチガイデス」


 露骨な嘘を西本美織に俺は言った。

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