第5話 群青日和①

 電車に乗る。こっちに戻ってきたぶりの電車だ。土曜の11時頃への東京へ向かう上り線は、空いてる席は無いが、ギューッとすし詰めになるなんて程も無く余裕がある。


 吊革に捕まり隣で立っている伶をの方に顔を向ける。


「何?いっちゃ??」とスマホでLINEをして、今日会おうとしている人物と連絡を取り合っていた令が僕の方へと顔を向ける。


 戻ってきてから見慣れたジャージ姿では無く、黒いシャツと黒い丈が短いスカート。ハンドバッグも黒と今日の令は全身黒いコーディネートだったが野暮ったさは無く、カジュアルにきまっていた。


 対する僕は、足元は普段使いのクロックスにヨレヨレで色落ちしている青色の無地のTシャツにジーンズ。


 さすがにいくらなんでもこの二人の組み合わせでこれからデートに行くってのは考えにくい。実際にデートではなかった。


「ギッチョン……山岸君は来るって?」


 子供の頃のあだ名で10年以上合ってない旧友を呼ぶのに電車内ということもあり言い直して、伶に尋ねる。


「ギッチョン何か土曜でも働いてるみたい。何か少し遅れるみたいだからどっか入って待っててくれないか?……だって」


 左手を吊革に右手でスマホを持ちながらフリック入力をしている令が答える。


「あっそーなの?どれくらい遅れるって?」


「うーん。ちょっととしか書いてこないし分かんない」


「あっそう?ならどっかテキトーに喫茶店でも入ってようぜ。西口でいいんだっけ?」


「うん。私、おなかも空いたし少し甘いものも食べたい。アイスとか」


 僕と伶は新宿に向かっている。


 理由は、もう一回子供の時のメンバー達を集めてキックベースをするために。


 当時のメンバーの一人で僕と伶の小学校の同級生ギッチョン……山岸壮平と会うために。そしてキックベースをしようと誘おうとするために。


 僕は高校入学時には小学校の友人とは疎遠になっていて、連絡先も一人も分からなかったが伶は知っていた。と言っても彼女も普段から連絡のやり取りなんてせず、今日久しぶりに合うらしい。


「へー。よく返信きたね?」


「んー……送ったら直ぐ来たよ?凄い瞬発力?で」


 凄い瞬発力な理由は何となく想像できた。ギッチョンは伶の事が好きだったからだ。それはもう露骨に。たぶんギッチョンの初恋は伶だ。初恋の相手から久しぶりに会えると連絡来たのだ。男はアホなのだ。アホすぎるのだ。


「ちなみに今日、俺が来るって山岸くんには言ってる?」


「あー……そー言えば言ってない。まぁいいっしょもう池袋だし。次だし。それにサプライズてことで」


 何のサプライズにもなってない。てかお前が急に連絡するのがもうサプライズなんだよと一人心で思う。


 トモキ君については、伶には話してない。というよりも地元のレンタルビデオ店で働いてるのだからもしかしたら伶は知ってるのかもしれない。


 けど彼については話せなかった。あの店で応対されたときの生気のない死んだ魚のような目を思い出し、背筋がゾクリとする。もしかしたら単純に車内の冷房が効き過ぎていたのかもしれない。

 

 

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