宝石店にて 4−1

 警察署に向かう道中、エレナの無線にユエルの意識が戻ったという連絡が入った。容体も安定しているそうで、既に店長がジュディの自室へ引き取ったとのことだ。

 ということで、エレナはシロを警察署ではなくスパークルへ向かわせた。


「エレナ!」

「ぼ、ボス!!」


 スパークルの前で待っていたのは、ジゼルだった。

 もちろん彼の耳にこの事件の内容が入っていることは分かっていたが、独断での事件解決について、まだまともな言い訳が用意できていない。エレナは引き攣った顔で、シロから降りてジゼルに向かって敬礼をする。


「随分と派手にやったみたいだな」 

 だがジゼルの顔は心なしか穏やかに感じた。

「う。すいません、その~色々あって……」


「で、その子は?」

 ジゼルの指の先を辿ると、シロがいて……その体の後ろに隠れるジュディがいた。

 事件の被害者とはいえ、カザ出身であることに変わりない彼女は、不法入国での検挙を恐れたのかもしれない。


「えっと……今回の事件の被害者のジュディさんです。ここに運ばれたユエルさんの妹で、2人ともカザの出身」


 ビクぅ! とジュディの肩が大きく上がった気がした。シロは呑気にそんなジュディを見つめながら尻尾を振っている。


「なるほどな。で、処分はどうするんだ?」

 ジゼルとエレナは、ジュディに見られていないのを良いことに、ニヤニヤしながら会話を続けた。


「そうですね……。通常なら、強制送還でしょうか?」


 ジュディの様子を分かり始めたのか、シロがクゥンと切ない声を出した。


「……だな。でも警察は忙しいんだ」「ふふっ、ある程度は目を瞑ることも時には必要、ですね」


 ジュディがシロの背中からチラリと顔を出す。潤んだ瞳で2人を見つめる彼女

に、エレナは優しく微笑んだ。


「まぁとにかく、2人ともご苦労だったな。でもエレナ、いくら戦闘能力が備わっていたとしてもな、1人で何とかしようとするのはお前の悪い癖だ。今度からは必ず最初から応援を呼ぶように。難しければ俺に相談しろ。いいな」


「え、えへへ……気をつけます」


 ジゼルもエレナを見て笑った。叱られると思っていたエレナは心からホッとする。だが、


「それから残念なニュースなんだが」

「え?」

「署長が明日帰ってくる」

「あし……た?」


「机の上の書類を片付けろ」


 エレナは思考の整理が追い付かなくなって、数秒間の沈黙に陥った後、

「シロ! 警察署まで行くわ!! 急いで!!!」

 今までにないほど必死の形相でシロと警察署に向かうのだった。

 ジュディは急に開けた視界に目をパチクリさせた。


「あれ……おまわりさん、行っちゃった……」 

「あいつも被害者なんだよなぁ」と呟くジゼルの声はエレナには届かなかったが、彼女もまさに今、同じことを強く思っている。

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