スラムにて 2−1

 エレナとジュディはスラムに向かっていた。

 ロイは「様子を見てくる」と言って先に行き、ものの数秒で姿を消した。ロイなら女二人くらい抱えていけるのではないかと思い、自分たちも連れて行くようにジュディが申し出たのだが、「俺を乗り物扱いするんじゃねぇ」と怒られる始末であった。


「それにしても、スラムの人たちが、まさかそんな組織を作り始めてたとは知らなかったです」

 エレナは目線を落として言った。

「そのカザの人たちはどれくらいサウストに入ってきているんでしょうか?」


「う~ん……私が見ただけだと、あの中には10人もいないと思います。だけどき

っと、ナスカと一緒に動いてるってことは、結構強い人たちが来てるはずです。あの……おまわりさん、大丈夫なんですか?」


 大丈夫ですか? と聞かれると自信がない。だが「大丈夫じゃありません」とは言えないので、エレナは頑張って作った笑顔で「大丈夫です!」と答えるしかなかったが、それが逆にジュディを不安にさせているような気がしてならなかった。


 ただでさえスラムの人間には手を焼いている。それが今回どれだけの人数を相手しなくてはならないのか。しかもジュディを守りながら。更にロイ、彼の場合は好き勝手暴れられるのではないかという懸念がある。無駄な被害を出してしまうのではないか。勝手な判断で捜査を続行している上に、そうなってしまった場合に自分にもどんな処罰が待っているか分からない。

 ネガティブなエレナは次々と不安材料を自分の頭の中に並べていった。


「サーペントの人たちを、みんな逮捕するんですか?」


 ジュディの問いかけに、エレナのネガティブワールドが一旦停止した。


「みんな逮捕というのは、難しいですね。まず今回警察は私一人ですし、現実的に厳しいのもありますが、だからといって応援を呼んだ所で、その組織の実態がはっきり掴めてないままでは何とも……スラムの人たちを無差別に逮捕するわけにもいきませんし。現行犯で逮捕できない限りは、まず捜査の手順を踏まないと……」


「そうなんですか……メンドクサイんですねぇ警察って」

「ただカザの人たちに関しては、不法入国でまとめて逮捕できますけど」

「うっ」


 ジュディがドキッして肩をあげた。そもそもカザの住人は無国籍扱いだ。特別な審査を経ていないと入国できないが、審査を受けてたとしてもまず通らないだろう。

 エレナは少し意地悪に微笑んでみせてから、気を取り直すように、自分に言い聞かせるように前を見て言う。


「でも、まずはお姉さんの救出と、ナスカの確保です。その取り巻きのカザの人たちの確保も、できる限りはやってみます。ただの宝石泥棒だと思って追ってた犯人が、こんな大物に繋がるなんて思ってなかったですけど……乗りかかった船です。せっかくできたこのチャンスを逃すわけにはいきません」


 先ほどのネガティブワールドを振り切って、エレナは警察官としての自分の使命に集中する。ややあってしばらく現場を離れていたエレナであったが、現場ではやるべき事に集中し、冷静でいることが何よりも大切だということを忘れた事はない。


 深呼吸をひとつして、エレナはジュディに尋ねた。「さぁジュディさん、作戦はどうしますか?」


「ありません!」


 エレナはずっこけた。

 彼女の自信満々な答えに、エレナの自信がなくなった。これでは何のために一旦時間を作ったのか分からない。


「そんな誇らしげに言わないでください……。まさか正面から突っ込んで手探りでお姉さんを探すつもりだったんじゃないですよね?」

「え、えっとぉ、なんとかなるかなって……えへへ」

「えへへじゃないですよっ! 生きてスパークルへ帰るんでしょう!? 考えなしに動くのは無謀すぎます!」エレナはジュディに顔をずんっ、と近づけて詰め寄った。


「こ、コワイコワイ!で、でもぉ、アタシ道も知ってるわけじゃないし、その上どこからアイツらが湧いてくるかわかんないし、作戦って言われてもどうしたら……」

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