4. JKとスカートの中

 まっすぐに帰ると思いきや、西川さんは得意げに腕を伸ばしバランスをとりながら、遊歩道の横に設置された手すりの上を器用に歩いている。


「私ね、パンツを履かずに町を歩くのは初めてなの。誰も私のことなんて見ていないと思うけれど、それでもスカートの中身を覗き見られているような気がしてしまうわ」


「ごめんなさい。僕のせいで……」 


「怒っている訳ではないの。どちらかと言うと開放的な気分で清々しいわ。どうしてこれまでずっとパンツを履いていたのか。そんな疑問さえ湧いてくる。心の皮が一枚剥がれた気分で爽快な気分なのよ。だって女子高生がパンツを履いていないなんてロマンチックでしょ」


 恐ろしい。物凄く恐ろしい。パンツを否定している。

 パンツがなければ、パンチラがこの世から消えてしまう。僕が発言するのは心苦しいが、パンツがちらっと見えるか見えないか、そのドキドキは世の男性の活力だ。


「パンツは履いてください。パンチラは男性の憧れなんです」


「仏前くんからそんな発言が出るとは思ってもみなかったわ。でもそれは、仏前くんがこれまでにパンツを履いていな女子高生に出会ったことがないからよ。例えば私のスカートを見て。私はパンツを履いていない。このスカートを少しづつ上にあげると、女の子の大切なものが見えるわ。ドキドキするでしょ。パンツが見えるのとは、比べ物にならないと思うのだけれども」


 本当にそうだろうか。

 パンツに勝るものがあるだろうか。


「そこまで言うなら、仕方ないわね」

 と、西川さんは躊躇することなくスカートを上げていく。


 街灯に照らされた長い足。日に焼けていないキメの細かい白さが視界に入ってくる。見てはいけないものが見えた気がするが、スカートはすぐにおろされた。


「パンツも可愛い。けれども、それは飾りにすぎないわ。だってあるがままの姿ではないのだから。いくら下着や制服で着飾ってもそれは、仮の姿よ」


【眼横鼻真(がんのうびちょく)】

 とは、読んで字の通り。眼は横、鼻は真っ直ぐに付いていることを示している。つまり、あるがままを受け止め、あるがままを感じ、あるがままでいることの美しさの例え。人はそれを理解するまでにどれ程の年月を費やす事だろう。


 パンチラに目が眩み、その下にある本来の女性の姿を見て、それをあるがままに受け止めなければならない……。


「でも仏前くんにとって、私のありのままの姿は、お気に召さないようで心底残念だわ」


 手すりの上で一回転。ヒラヒラとスカートが舞う。

 まるでダンスを踊っているようでとても綺麗だ。


「仏前くんが、そこまでパンツを愛しているとは知らなかったわ。パンツって、みんなから愛されているのね」


 成り行きとはいえ、パンツ愛を語ってしまった。


「ちょっとそのお店で炭酸ジュースを買いたいの。喉が乾いたわ」


 西川さんは手すりから勢いをつけてジャンプ。スカートの両端をおさえながら、着地を決める。その視線の先にはドラッグストアと書かれた文字が見えた。


「僕もお店の中を見たいです」

「どうぞ、ご自由に。言っておくのだけれども、パンツは売ってないわよ」


 店内に入ると西川さんは、ジュースをさっと選ぶ。僕は、ふと、とあるパッケージに目が止まっていた。


『――0.001ミリ。まるで天国のようなつけ心地。』


 天国っ!!! それは、故郷であり僕の理想郷。これをつけることで、天国と同じ何らかの効果が得られるのあれば、ぜひこれを買いたい。


 迷いはない。レジに向かい即購入。

 時代が変われば、見たことのない商品は多い。下界でも天国を味わえるとは、最高じゃないか。






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