3. JKとパンツ
夕日を浴びながら長い黒髪と短いスカートを揺らす西川汐那さんの姿は、周囲の視線を釘付けにし、みな一様に3度振り返る。
胸は大きく、けれども全体的にキュッと引き締まった細いラインが特徴的でスタイルが抜群にいい。
「はやく帰って買ったエロゲーをするのが楽しみすぎて、私は今、浮かれているのだけれども。そもそもエロゲーをする時は、部屋の電気を消した方がいいのかしら? あっ、ヘッドフォンがないと臨場感が下がってしまうものなのかしら」
頬を撫でる爽やかな風が気持ちのいい夕暮れ時だった。それを邪魔するかのように、隣で西川さんが独りぶつぶつ話しているが、気にすることはない。
鳥たちが家路を急ぐように大空を舞い、遥か彼方へと飛んでいく。日本は本当にいいところだ。
カーカー。
カラスが僕の頭上を通り過ぎ、頭に生暖かい何かを落としていった。叫びたくなる気持ちをぐっと我慢しているが、体は硬直し右手と右足が一緒に出てしまう。
確認は必要ないだろう。カラスの糞が頭にのっている。
どうする?
どうすればいい?
ティッシュやハンカチは持っていない。
何度思考しても、この状況を打破するアイデアが浮かんでこない。
「ねぇ仏前くん、エロゲーを考えた人ってすごいと思わない?」
相変わらず独り話している西川さんが、僕の頭についたそれに気がつき唖然と立ち止まった。
「困りました。頭にカラスの糞が……」
流石の僕でも、言い淀んでしまった。
「自然体で生きると動物に愛されるものなのね。身を持って教えてくれるのは有難いのだけれども。そういう人との交流関係は遠慮したいと思っているの」
西川さんが、一歩一歩遠のいていく。
どうか僕を助けてください。
「あいにく有効な拭きものを持ち合わせていないのよ。残念だわ。本当は爆笑したい気持ちを堪えて、冷静に対応している私に感謝してくれてもいいと思うの」
西川さんは遠くに沈んでいく夕日を仰ぐ。空の青さは深くなり、次第に群青色に染まっていく。風が吹いて黒髪が揺れている。その佇まいに見惚れてしまう。
【松樹千年翠(しょうじゅせんねんのみどり)】
とは、千年もの間、美しく色褪せない様子。つまり大切なことは、いつも目の前で起きている例えだ。
僕と西川さんの関係性は、始まったばかりだが、すでに彼女は僕の目の前で色褪せない輝きにみちていた。
「決めた。どうにかしてあげる」
西川さんは僕の手を引いて歩きだした。公園へと入り、人目の付かない木陰へと足を進める。
「同じ寮生じゃなければ、助けてあげる義理なんてない。けれども遠い親戚よりも近くのなんとかって言うものね。先に断りを入れておくのだけれども、私は変態ではない。そこだけは理解しておいて欲しいと思うの。わかったらそこに座って下を向いてて。はら、はやくしなさいよ」
覚悟を決めたように唇を固く結ぶと、さっとスカートを捲り、パンツに手を伸ばした。長い両足を器用に曲げながら、パンツを脱いでいく。
「?」
「買ったばかりの可愛いパンツだけれども、仕方ないわ。じっとしててよ」
瞬間、僕の思考は柔らかな手つきによってぶっ飛んだ。脱ぎたてのパンツで頭を拭いてくれる西川さん。
顔の前で、容赦無くスカートが揺れる。
西川さんの本当の優しさに触れ、胸が熱くなる。
なんだこれは……。
「思ったよりも綺麗に拭き取れたのは、私の努力のお陰だと思うの。ひとつだけ言わせてもらうなら、パンツを履いていないのは、恥ずかしいものなのだけれども」
冷静な西川さんの頬が紅潮している。
僕は彼女の恥ずかしそうな表情と、脱ぎたてのパンツの匂いを、忘れることはないだろう。
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