2. JKとエロゲー

【極楽】

 とは、阿弥陀仏の浄土であり、サンスクリット語「スカーヴァティー」は「スカー」に「ヴァティー」を加えたもので「幸福のあるところ」「幸福にみちみちてあるところ」の意味。


 そこに新しい理解を追加したい。


 極楽――とは、女子高生に突然腕を掴まれ、ギューとおっぱいが腕に当たり、その感触が「この上ない柔らかさにみちみちていること」の意味。――仏前奏陀より。


「これは、今大ヒット中のエロゲー『JKの淫らなイケメン仏様との放課後・絶頂の極楽浄土』本当に刺激的で挑戦的なタイトルね。パッケージデザインはずっと見ていても飽きがこない。おまけに登場人物は、可愛い女の子ばかりで嫉妬してしまうわ」


 店内にはずらり『JKの淫らなイケメン仏様との放課後・絶頂の極楽浄土』から飛び出したキャラクターが並び、みな大きなおっぱいを揺らしニコッと微笑んでいる。


「ねぇ仏前くん、本当は私こんなところに入りたくはなかったのだけれど、仏前くんのために、私は仕方なく入ってあげたの。それでね、せっかくだから『JKの淫らなイケメン仏様との放課後・絶頂の極楽浄土』を買って行こうと思っているの」


 嘘はいけない。

 うんそうだよ。

 嘘はね、自分まで騙せないものですよ。


「西川さん、白状して。本当は最初からそれを買いにここに来た。そして一人で入る勇気がなく、何かのタイミングを待っていた。そしたら、偶然に僕が現れた。そうでしょ?」


「残念だけど、私のように可愛い女子高生がR18のエロゲーを買うために、ここに一人で来た。というのと、童貞の男の子に無理やり連れられここに入った。さぁ世間はどちらを信じると思う? 答えは考えなくても、後者よ。私は仏前くんに、無理やりここに連れてこられた。仏前くんは、『JKの淫らな仏との放課後・絶頂の極楽浄土』をとてもやりたいと思っていた」


 おっぱいがポロリしているパッケージを近づけられ、顔から湯気が吹き出て、視線を逸らせた。


「ちょっと仏前くん顔真っ赤じゃない!」


 詐欺にあったような気分だが、男の立場はいつの時代も弱い。悔しい。それに顔の赤さをズバリ指摘するのは、凶器です。


 頭がクラクラしてきた。

 ついに僕は、倒れ混んでしまった。


「仕方ないわね」

 と、西川さんが自身のスカートをパタパタとあおぎ、顔に風を送ってくれる。


 罪の償いだろうか。優しさに感謝しつつも、チラチラとパンツが見えて、心臓が破裂しそうだ。


「心頭滅却」

 目を閉じ、心を無にすることで、心が無の境地に至れば、火でさえも涼やかになる。すなわち、どれだけ裸の女子高生が僕を絶頂させようと試みても、取るに足りない。


「何してるの? おーい、仏前くん! 聞いてますか…………!」

 西川さんの声が徐々に遠くなる。


 しばらくして平常心を取り戻した時、すでに西川さんの姿はなかった。どうやら瞑想には、彼女を追い払う効果があるようだ。


 気分もすっきり、ゲームはまたの機会に購入するとして、設定書に目を通しながら、お店を出た。


 おいこら。何故そこにいる。

 

 西川さんが何か文句でもいい足りない様子で待ち構えていたのだ。声をかけることすらためらわれたが、いつかの滝行を思えば、こんなことは朝飯前だろう。


「えっと、もしかして待ってたの?」

「そのもしかしてよ」

「どうして?」

「一緒に帰ろうと思って、ただそれだけ。特別な意味はないのだけれども不服かしら?」


 一緒に帰る? 非常にやばい。

 ご縁ではあるが、触らぬ神に祟りなし。

「それじゃ僕はこれで」

 控えめにあいさつをして、立ち去る。


「もう一度言うけれど、意味はない。けれども同じ寮なのだから至極当然。例えば、水に火をかければお湯になる。それくらい当たり前のことだと思うのだけれど」


「……っっっ!」絶句。






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