JKとブッダ様
木花咲
1. JKとブッダ様
「ブッダ様、どうしても下界に行かれるのですか?」
天使に言われて、うんと遠くの地獄に視線を向けた。
「666年続いた地獄との戦争に疲れました。少しの間、下界でゆっくりさせて頂きます」
「お察しします。下界でリフレッシュ、素敵だと思います。頼まれていた設定は登録が完了しています。今一度、設定書には目を通してくださいね。では、良い下界生活を」
天使の導きを受け、下界へと続く
座禅をくみ、設定書をペラペラ確認。上空から急降下中。これでしばらくは、女子高生とゆったり。JKとイチャイチャ。あんなことやそんなこと……。おっといけない! 下界に来た瞬間に煩悩が出てしまった。仏としてお恥ずかしい。許して頂きたいと思う。
秋葉原のビルとビルの間に着地を成功させ、大通りへと出る。ビルの巨大スクリーンに映し出されたアイドルが歌い踊る映像を見ると、心臓が高鳴った。
「……可愛いな」
発注した通り胸ポケットには学生書が入っているし、学生服を着た僕は、どこから見ても学生にしか見えない。まぁ頭の髪の毛には少し特徴は残るが、それでも一般人として許容範囲だろう。
早速、下界で流行っていると噂のゲームを購入するために、スマホの案内に沿って、電気屋に向かう。もしゲームが本当に楽しいものであるなら、是非とも天界でも広めたいと思っている。
歩くこと数分、大型電気店の前に立っていた。
――ウィーン。
ワッツ! 自動でドアが開いて、挙動不審な行動を取ってしまった。なるほど、これが設定書にもあった自動ドアという代物か。
ゲーム階へと自動階段・エスカレーターで意気揚々と上がっていくと、そこには右も左もゲームがズラリと並んでいた。
アクション、戦争、ミステリー、ロボット、ジャンルごとに整列しており、店内を奥へ奥へ進む。R18と書かれた暖簾の前で足を止めた。
「これは一体……。」
スマホで検索。――18歳未満禁止を意味する。
と、出てきた。天使にお願いした僕の年齢は18歳だ。つまり、暖簾をくぐる権利を持ち合わせていることになる。どんなゲームが隠されているのだろう。
人生を楽々と攻略するための秘伝のゲームだろう。その思いのまま、暖簾に手を伸ばす、
「仏前奏陀(ぶつぜんかなた)くん、そこで何をしているのかしら?」
「――――っ?」
背後から透き通るような声に話しかけられた。
予期せぬ事態ではあるが、冷静に対応しようと振り返る。艶のある長い黒髪を揺らす女子高生が立っていた。天女様と見間違えるほどの容姿だ。まさに後光が差して見えた。
一石二鳥とは、このことだ。今回、職業を高校生に設定したのは、女子高生とほのぼのし、天界で傷ついた心を癒す。それが切なる願いだ。だが、それは明日からの学園生活を想定してのこと。
しかし、ゲームを狙って電気屋に来たら、女子高生まで引き寄せた。やはり僕は、運がすごくいい。このチャンスを生かし、是非とも仲良くなりたい。
「えっと、どちら様で……?」
「仏前くんったら酷いわね。西川汐那(にしかわしおな)だけれども。もしかして、御開帳を想像して、脳みそが汚染されたのかしら。仏前くんのことなんて微塵も興味ないのだけれど、たまたま通りかかったので善意で話しかけてあげているのよ」
天使の計らいでこれから僕と関わりを持つ人間の記憶には、すでに何らかの関係性が書き込まれているようだ。
つまり僕は、人間界に今さっき降臨したのではなく、彼女たちの記憶では僕はずっとこの世界で生きている存在だということだ。
降臨の仕組みも随分と技術が進歩したな。
「御開帳、それはメデタイ。ゲームを極めた大日如来様でも拝めるのかな?」
「白々しいわね。仏前くんは名前に、仏と付いているのに恥ずかしいと思わないの。本音で言わせてもらうと、私は今、仏前くんに話しかけたことを物凄く後悔しているのだけれども」
どうしてだろう。西川さんが腕組みをし露骨に不機嫌になっている。状況が把握できない。すっとぼけ作戦だ。
「あっ、幽霊!」
フェイントをかけて、設定書をちらり再読。
――――西川汐那・学年一の美少女で容姿端麗、頭脳明晰。
「幽霊? そんな子ども騙しは通用しないわ。もしかして一瞬の隙にこの場から逃げようなんて考えだった訳じゃないでしょうね。もう一度質問するわ。仏前くんは、ここで何をしているの?」
西川さんが不穏な空気で僕を見ている。この先には相当やばいゲームが並んでいると確信する。猛烈に知りたい。が、ここは一旦引き下がるのが賢明だ。
「あれれ。手が勝手に〜、僕としたことが変だな〜」
うまく誤魔化せたか? ずりずりと足を数歩後退させたところで、西川さんが僕を覗き込んできた。天女様のオーラを身にまとう美少女に見つめられると、しどろもどろしてしまう。
「えっと……。あのぉそのぉ、僕ゲームやったことなくて」
「仏前くん、童貞だからと気にすることはないと思うのだけれど」
きっぱりとした声と共に『壁ドン!』ならぬ、『R18暖簾ドンッ!』に恐怖を覚えた。
「この先に行きたい。それは誰にでもある欲求。例えばJKのスカートの中を覗いてみたい。そんな欲求に似ている。神秘的な聖地を目の前に、魂が震える。そうでしょ!?」
ほへ?
「仏前くんは、確か18歳よね。ここで出会ったのも偶然。いいや必然。だとしたら、これから取る行動はひとつ。知らないかもしれないけれど、私も18歳なの」
一瞬、西川さんがにやっと微笑んだ。先が読めなくて混乱する。同時に逃げ出したいと思う。なのに……、
ぁ……っ――――!
西川さんは僕の腕を勢いよくぐぃと引くと、有ろう事かR18の暖簾をくぐったのだ。
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