第35話
やらかした。本当に、言い訳もできないくらいやらかした。
思ってたよりもずっと楽しくて、ムキになっていたんだと思う。
後悔がないわけじゃない。せっかくよくなってきていた膝を痛めつけて、
まともに立てないような状況、望んでいたわけでもない。
でも、あの瞬間、ああしたかった。もう一度バスケに本気になりたかった。
きっと、そういうことだと思う。
僕のもとへ駆け込んでくれた赤井さんと赤崎さん。
二人にもダサいとこ見られたし、相当心配させちゃったかな。
この膝で、学校もどうしよう。僕がいなきゃ部活、出来ないじゃん。
色んな思いが駆け巡り、僕は泣きそうだった。
でも、これ以上かっこ悪いところをみせたくなくて、必死にこらえた。
ようやくたどり着いた保健室。そこには担任がいた。
「水面、悪かった。俺がバスケをやってくれなんていったばっかりに…」
「先生のせいじゃないです。選んだのは僕だし、あんなプレーしたのも僕です」
先生はせめてこれくらいは…と言って僕のかかりつけ医に連絡をとってくれた。
「本当は今すぐにでも俺が連れて行ってやりたいんだが、
球技大会が終わるまでは厳しくてな。もう少し待っててくれ。
赤井、ついてやっててもらえるか?」
「はい。先生」
正直ありがたい。あの病院に行けばまた、歩けるようにはなるだろう。
完治するための手術は難易度が高いから海外の方がいいって言われただけで、
日常生活には支障がないくらいにはなってたんだから。きっと今回も大丈夫だろう。
「じゃあ、あたしは自分のクラスに戻るわ。和田には話しておくからなんかあったら頼りなさいよ?」
「ありがと。でも、多分大丈夫。それと部活、しばらく休むことになると思う。
部室に集まるなら、美咲先生に言えば開けてもらえるから」
「はいはい。あんたがいなくても素材集めくらい出来るわよ。それじゃね。お大事に」
担任と赤崎さんが保健室から出ていった。保険の先生は校庭で待機しているらしく、
赤井さんと二人っきりの状態になる。
「水面くん!どうしてっ、どうしてあんなことしたんですか!
こうなるかもってわかってたのに!」
我慢していたのだろう、赤井さんは涙を流しながら僕を叱るように言葉を吐き出す。
「多分、まだバスケに未練があったのかな。
あの瞬間の空気、決まったときの快感。やってるうちに思い出しちゃってさ。
止められなかったばかだよね、ほんと」
「本当だよ!ばか!ばか!水面くんのばか!いっぱい、いっぱい心配なんだからね!」
ああ。夏休みに出会ってからまだ二ヶ月も経っていないのにこんなにも心配してくれるのか。
「心配かけて、ごめん。あれで最後だから。もう無茶はしないって約束するよ」
いいながら僕は小指を出す。
「約束だからね!破ったら……まあ、いっか。約束」
年甲斐もなく指切りをする僕ら。
「でも、水面くんすっごくかっこよかった」
「え?いまなんて?」
「ううん。なんでもありませ~ん!」
本当は、聞こえてたんだけどね。さすがに恥ずかしくて誤魔化した。
「入院ってなったら毎日お見舞いに行くから覚悟しててね!」
「ありがたいけど毎日はさすがにちょっと…部活もちゃんとやってね!」
「水面くんがなんと言おうと行っちゃうから!部活ももちろん頑張るよ」
「じゃあ、病室教えないようにしようかな」
「なんでそんな意地悪いうかな~?もしかして、好きな看護師さんがいるとか?」
「そ、そういうのじゃないから!」
毎日赤井さんくらいかわいい子がきたらからかわれるでしょ。
あ、でも想像したらちょっと嬉しい。
「にやにやしちゃって!怪しいな~!」
なんだかんだ、いつものノリで、居心地が良くて、赤井さんとの距離が少しだけ縮まった気がした。
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