第34話
すごかった。もうそれしか言えないくらい、さっきの水面くんはすごかった。
それにキラキラした表情、心から楽しんでるんだってわかってしまった。
自分のことをオタクだって言って、わたしたちと一緒にいてくれたけど、
本当はああやってバスケをしたいのかな?
膝がって言ってたけど、あんなふうに出来るんだもん。それくらい、軽く乗り越えてしまいそう。
なんか、水面くんが遠い。さっきまで一緒にお話して、楽しかったのに。
たったこれだけの、水面くんの普段と違う一面をみただけなのに、すごく遠い。
もう、エンタメ部に、ううん。わたしの側に戻ってこないのかも。
水面くんへの想いを認識してしまったわたしは柄にもなく、そんなことを思っていた。
思っていたんだけど、林檎ちゃんの一言で正気に戻された。戻るしかなかった。
「水面!!!」
林檎ちゃんの、切羽詰まった声。それに呼応するようにさっきの歓声とは別の感じで体育館中がざわつく。
え?なにがあったの?
冷静になってコートに意識を戻すと、水面くんが膝を抱えて立ち上がれずにいた。
「水面くん、膝の話本当だったんだ…それなのに、あんなこと!」
わたしはいても立ってもいられなくなって水面くんの元へ向かう。
「ちょっと、紅葉ちゃん!!!ああ、もう!和田はなんで肝心なときにいないのよ!!!」
林檎ちゃんも追いかけてくる。
わたしが水面くんの元へたどり着いたとき、
同じクラスのバスケメンバーが水面くんを囲んでいた。
「心配いらないって。こうなるかも、ってわかってやったんだから。ね?須藤くん」
「そりゃ、そうだけど…まさかこんなことになるとは思ってなかった。軽率だったわ、すまん…」
「いいって。僕が勝手にやったんだし。ほら、まだ試合時間あるでしょ?
プレー続行して。僕は…保健室に行ってくる」
どうして?立てないくらいなんだから絶対に痛いはずなのに。
なのにどうして平気な顔して自分からみんなを遠ざけようとしてるの?
「お前の意志、俺達が継ぐ。負けは決まってるけど、せめて恥ずかしくない試合をしてくるわ」
「うん。頑張って」
「よし、誰か水面を保健室に…」
「水面くん!!!」
声を上げてしまった。こんなキャラじゃないはずなのに。
「あ、赤井さん。はは、ダサいとこ見せちゃったかな…?」
「そんなことない!かっこよかったよ。それより、早く保健室にいこ?肩、貸して?」
わたしは返事も聞かずに水面くんの腕を自分の方に回す。
男の子って、結構重い…
「ああ、紅葉ちゃん、焦りすぎよ!水面!逆側はあたしに貸しなさい!」
「ごめんね、二人とも」
そういった水面くんの声はさっき男子たちと話してた声と違って、悔しそうな、泣きそうな声だった。
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