『ソ連人』のあらすじ





    –––––––ありがとうアンゲリナ。私の、こんなにもこわばって可愛くもない表情を壊してくれて・・・–––––––




 モスクワに到着したばかりのナタリアはさっそく無愛想なロシア人という現実に直面していた。

 彼女が住まうことになったのはモスクワ郊外にあるコムナルカと呼ばれる集合住宅だが、そのやや古びた建物には自分と同じアイドルを目指すソ連や共産圏から集まって来たメンバーの姿があった。


 自分と同じアイドルの仕事をすることになったその同僚にはベラルーシ人のアンゲリナ、グルジア人のニノ、リトアニア人のサラ、カザフ人のクララ、東ドイツ人のエルザ、そしてナタリアが偏見を抱いているロシア人のソフィアがいる。

 人種も年齢も生い立ちもバラバラな彼女たちに対する不安はもちろんのこと、ナタリアはいつも眠そうで何を考えているかも分からない大きな体格のソフィアを見るだけで、本当に自分はこれからモスクワでうまくやっていけるのだろうかという不安を大きくしていく。


 ベラルーシ、ロシア、ウクライナの三ヶ国を代表し、アンゲリナとソフィアとナタリアの三人のもとには5月8日の戦勝記念日にラジオ放送で歌うという初めての仕事が舞い込むことになった。


 当初ロシア人に対して強い苦手意識を抱き、対抗心を燃やしていたナタリアだったが、ソフィアの頑張る姿に強く心を打たれて徐々にその凝り固まった偏見を崩し、本番までのわずかな練習期間を彼女たちと一緒に駆け抜けていく。

 

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