ゴースト・スクール~ghost school~

 ある日の夜更けのことです。

 端整な顔立ちをした無職の首なし騎士が、木造の校舎の軒下のきしたで雨やみを待っていました。

「参ったなあ」

 と首なし騎士は呟きました。「いつになったら止むのだろう」



 木造の建物はだいぶ前に廃校になったものらしく、裏口の扉は簡単に開きました。


「ひと晩だけお邪魔します……」


 扉の内部はひんやりとした空気がたち込めており、マントを羽織った首なし騎士の背中をゾクリと震わせました。

 芋虫のように身をちぢこませて、適当な寝床を物色します。

 幸い、三階の理科室のガラス窓には木綿のカーテンがそのまま吊るされてましたので、それを毛布代わりにするとします。

 ところが、先客がいました。



「あんな大声を出すから驚きましたよ」

「すみません、まさか誰かいるとは思わなかったもので」

 首なし騎士はペコペコ頭を下げて謝りました。

 半裸(?)の人体模型は気さくに笑いながら、

「いやいや、こんな雨ですからお互い様です。さ、どうぞ。これは体育倉庫から拝借してきたマットです。ご安心ください、きちんと洗濯して干してあります」

 古びたマットはあちこちがほつれていましたが、心の休まるお日様の匂いがします。

「これは自作の枕です、どうぞ」

 ありがたく使うことにします。

「これはアルコール・ランプで茹でたチキンラーメンです。あぶったスルメとれ立てのコーヒーもあります。どうぞ」

 美味しくいただきました。

「気を悪くしないで欲しいのですが、首なし騎士と言われるわりには、実に器用に食事をされるものですね」

「ええ、よく言われます」

 枕が替わると寝れない性質タチなのですが、この日はぐっすりと朝まで惰眠をむさぼりました。

 


 翌朝は健やかな冬晴れでした。

 親切な人体模型は、理科室の片隅であたかも無機物のようにじっとしていました。生徒や教師を怖がらせないように、という昔からの習慣のようです。

 答案の裏紙にお礼の言葉をしたためてから、また当てのない旅を続けることにします。名残惜しいですが、廃校に首なし騎士はどう考えてもミスキャストと言わざるを得ません。

(その代わり、理科準備室に所狭しと積み上げられたチキンラーメンとスルメとコーヒーはいくつか盗み……もらっていきました)



 首なし騎士の行方は、誰も知りません。

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