SSS吸血幼女と魔法剣士の因縁戦

 先手を打ったのはエリィだ。


「貰った!」


 腰にある鞘のから何かを引き抜く。それはうねうねとのたうち、ベトベトにつけられた生クリームを周囲にばらまく。


「深淵なる闇に潜む触手の王——ゥナギをくらってください!」


「そんなモノ敵ではないのう」


 イヴァの身体は霧のように消え、ゥナギはただ地上へと無様に落下する。


「ミキネさんがいないところではクールぶっている表情、ウナギのぬめぬめで悶える顔を見たかったのに——さすが吸血鬼ですね」


 霧から元の姿に戻り、エリィへと生クリームを背後から投擲する。


「仮にも私は魔法剣士、甘く見ないでください!」


 背後を向いているにも関わらず、エリィは腰から本物の細身の剣を二本抜いて、瞬息で生クリームを叩き落とした。


「ならばこれはどうじゃ」


 イヴァはその場で次々と分裂する。その数は十二名。十二のイヴァは同じように皆生クリームを手に持っていた。


「な、ぶ、分身ですか!」


「どれも質量のある残像じゃ」


 口元だけ笑い、次こそ死角のない生クリームの連射をお見舞いする。


「仕方ありません!」


 手に持った剣を投げ捨て、別の鞘から剣を引き出し、華麗にダンスを踊るようにその場で舞う。生クリームを叩き落とすでもなく、剣を包んでいる液体だけで生クリームを分離させているのだ。


「ふっふ、この剣の中にはワインが入っています。ワインには酸があり、それは生クリームを分離する」


「見かけによらず、考えているようじゃない、ならば——」


 イヴァは一体に戻り、エリィ目がけて手を伸ばす。


「—————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————」


 常人には聴き取れぬ魔術式を次々と構築し、空中に魔術陣が所狭しと創造される。


「恐怖に慄くがいい、ラミア・トリート」


 宙に生まれた球体を中心に地面に落ちているお菓子や食材が次々と吸い込まれ、最終的に生まれたのは五メートルほどのカボチャ頭のお化けだった。


「うわ……イヴァ、絵が下手なタイプですね」


 そのカボチャモンスターは左右のバランスもおかしく、横から見るとお菓子の量もまばらで幼児が作った紙粘土の方が一億倍マシだった。


「う、うるさいのじゃ、こやつの力を見ても余裕を出していられるかの! 行け、カボチャちゃまる! あのスクール水着を剥いでしまえ!」


「ネーミングセンスが、ないの可愛そうですね……」


 おおおおお、と啼く声は威嚇の声か悲しみの声かそれは本人にしか分からない。


 近くにいた制服組とスクール水着組が騒ぎを聞きつけ、イヴァとエリィの近くまでやってくるが、カボチャちゃまるのあまりの大きさに怯んで動けないでいた。


「最終決戦じゃ、すすめー!」


 先頭に立ちイヴァが制服組へ指揮を送る。少女達は気合を入れなおして、各々手に持った獲物でスクール水着組に攻撃を開始する。


「あのカボチャを持ち帰れば勝利です!」


 迎え撃つようにエリィが剣を掲げる。


 これほどまでに真っ平らな胸でスクミズを着て剣を掲げる姿が似合う少女は、全世界を探しても彼女しかいないだろう。


 後の「スクール水着のエリィ」と呼ばれる伝説が誕生する瞬間である。


 この後、戦いは戦いは生クリームで生クリームを洗う不毛な七日間世相に突入しようとしかけたが、それはあっけない幕引きだった。




「両軍、ロイヤルトラベリングによるスリーセンセーショナル剥奪により、インファイナルアフェアで試合終了となります!」




 お互いにファーストクリームを撃った直後に出てきたミリャ先生の眼鏡は飛び散った生クリームの洗礼を受ける。


 さらにスーツ姿の豊満な胸にもクリームが乗り、お菓子祭りは両者引き分けで開けなく幕を閉じた。


 この戦場に立った戦乙女たちは、向こう十年、不幸とは無縁の生活を送ったとかなんとか、いわれているが、それはまた別の話である。

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